日本でも書跡のほか、NHKで放映されたテレビドラマ、劇場版映画などで知られる「長くつ下のピッピ」。世界一の力持ちのピッピが、友だちのトミーとアニカと一緒に冒険を繰り広げるストーリーです。
作者はスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーン(1907-2002)。1941年、リンドグレーンは風邪で寝込んでいた愛娘を喜ばせるために、天衣無法な女の子の物語を即興で語った事が、物語誕生のきっかけになりました。リンドグレーンの著書は、全世界100カ国語以上で翻訳され、出版部数は総計1億6000万部以上発行されるなど、世界中で楽しまれています。
展覧会は、ピッピをはじめ多くの子ども向け作品を生み出し、「子どもの本の女王」とまで称されるリンドグレーンの世界を、幅広く紹介する企画。出展された原画やオリジナル原稿、愛用品など約200点は、その多くが日本初公開となります。
会場冒頭には、リンドグレーンがタイプして娘の誕生日に贈った、オリジナルのピッピ原稿が。イラストもリンドグレーンが描いたもので、スウェーデン国外初出展という貴重な作品です。
大きなスペースで紹介されている「長くつ下のピッピ」の中で、見どころのひとつが絵本の世界を再現した「ごたごた荘」の大型模型。馬とオナガザルと一緒にピッピが住む大きな家が「ごたごた荘」。トミーとアニカも遊びに来ています。
会場中盤では、リンドグレーン自身についての紹介も。リンドグレーンはスウェーデンの20クローナ紙幣の肖像になっている、国民的な作家です。
子ども対する優しい眼差しを持ち、社会に対しても積極的に発言したリンドグレーン。1978年にはドイツ書店協会平和賞の授賞式で、暴力に反対するスピーチを行っています。その翌年、スウェーデンでは世界に先がけて、子どもへの体罰が法的に禁止されました。
後半ではピッピ以外の作品も。「やかまし村の子どもたち」「ちいさいロッタちゃん」など、魅力的な作品が並びます。
日本を訪れた事はありませんが、自宅には能面が飾られるなど日本に思いを寄せていたリンドグレーン。ピッピの挿絵を描いたイングリッド・ヴァン・ニイマンも日本を愛し、北斎などの浮世絵を模写しています。
ようやく実現した、日本での「長くつ下のピッピ展」。東京展の後には宮崎、京都、名古屋、福岡、愛媛と全国を巡回します。会場と会期はこちらでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年7月27日 ] | | 長くつ下のピッピ
アストリッド・リンドグレーン(著),桜井 誠(イラスト),大塚 勇三(翻訳) 岩波書店;新版 ¥ 734 |