『寺内貫太郎一家』『あ・うん』など伝説的なTVドラマの脚本家として知られ、直木賞作家で、エッセイの名手としても活躍した向田邦子が亡くなって25年になります。
「神は細部に宿りたまう」、それが彼女の信条でした。人生の機微と深淵を、ささいな日常の風景から切りとり、映像や活字に焼き付けました。ときにタブーとされるテーマにも挑んだ向田作品は、今も新しい感動を生み出し、若いクリエイターたちにインスピレーションを与え続けています。
本展は、生誕の地・世田谷での初の展覧会です。原稿や愛用品など初出品を含む約400点の資料で構成。『だいこんの花』『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』『あ・うん』をはじめとする代表的なシナリオ作品の草稿、全編揃っての出品は初めてとなる名エッセイ『父の詫び状』原稿、直木賞を受賞した『かわうそ』原稿など、豊富な自筆資料を一堂に展示し、皆様を向田ワールドへと誘います。ペン先からほとばしり出る作者の息遣いを、ぜひ感じ取ってください。
また、今回の展覧会では生前語られることの少なかった向田邦子の内面にも迫ります。華やかな交友関係や、優雅で洗練されたライフスタイルのイメージが先行する向田邦子ですが、突然の飛行機事故によって絶たれるまでの51年の生涯は、実は烈しく濃密なものでした。
両親の深い愛情に包まれて育った少女時代、シナリオを書くようになるまで試行錯誤を繰り返した20代、相手の男性の死で終わった30代の悲痛な恋愛体験、40代半ばでの乳がん手術などのエピソードにも触れながら、一人の作家の心の軌跡をたどります。
既存の価値観や権威にひるむことなく、果敢に生きた向田邦子の生涯と作品から、きっと多くの示唆を得ていただけることと確信しています。