松井みどりは、美術評論家として1995年から2006年に至る約10年間のアートシーンの中に「マクロポップ」的表現の出現と実践の現場を読み取ってきました。作家が産み出す新しい表現と美術評論家としての対峙は、それまでにはなかったタイプの作品群が位置する場所を、言説として思索する過程であり、松井は専門とする文学的分析手法から「マイクロポップ」という概念を獲得するに至ります。
本展覧会は、松井みどりが「マイクロポップ」なる概念を獲得する過程において、重要な働きかけをした作家の作品と、「マイクロポップ」の視座から未来を見渡した時に、さらなる展開を担うと思われる若手作家の作品とによって構成されるグループ展です。
本展覧会は「マイクロポップ」というコンセプトのもとに15人の日本人作家-タブロー・ドローイングを出品する奈良美智、杉戸洋、落合多武、有馬かおる、青木陵子、タカノ綾、森千裕、國方真秀未、写真作品出品する島袋道浩、野口里佳、インスタレーション作品を出品する半田真規、K.K.、ビデオ作品を出品する田中功起、大木裕之、泉太郎-を集め、彼らの新旧作品250余点を通して、独自な創造として発生しながらも、ひとつの共通性を持つようになった、ある芸術的創造力の姿を提示し、その芸術表現と同時代の若い人々の生き方や感性との共通点や、後の世代への影響力について考えようと試みるものです。
「マイクロポップ」とは、歴史が相対化され、様々な価値のよりどころである精神的言説が権威を失っていく時代に、自らの経験のなかで拾い上げた知識の断片を組み合わせながら、新たな美意識や行動の規範をつくりだしていく「小さな前衛」的姿勢です。この姿勢は、人や情報や物がかつてないスピードと規模で世界中を動き、遠くの出来事が自分の生活のベーシックなところまで揺るがしかねないグローバル時代にあって、それぞれの人が常に流動する状況に反応しながら自分自身の判断の基盤を作り、「生きている」という手ごたえを感じるために「小さなサバイバル」を試みているとも言えるでしょう。
本展は、「小さなサバイバル」の試みである個々の作品を一堂に集めることで、時代の様相としての傾向を視覚体験する場となると同時に、本展覧会を契機として、これまで、ややもすると周辺的にとらえられてきた領域の表現が、新しい価値、新しい芸術観として、広く認知され、同時に議論される場を提供し�うとするものです。