舞踏といえば、白ぬり、腰を低く落とした姿勢、坊主頭、異様な形相などをもって語られることが多いようですが、土方の舞台はこうしたステレオタイプに還元されてしまうものではありません。1959年に三島由紀夫の小説 「禁色」 のタイトルをあえて借用し、男色と獣姦を髣髴させる衝撃的な舞台でデビューを果たした土方は、1968年の暴力的で、エロティシズム、ユーモアに満ちた公演 「土方巽と日本人-肉体の叛乱」 に至るまで、美術家や音楽家たちと実験的でアヴァンギャルドな舞台を作りあげます。以降は一連の作品につけられた 「東北歌舞伎」 という呼び名に象徴されているように、故郷である東北の風土や生活から、それまでハレの舞台に上がることのなかった身振りや物を採取して、土俗的なイメージを打ち出しました。
土方の舞踏に一貫していることは、肉体を既知のものではなく、得体の知れない物体として捉えることでした。その点、土方の舞踏は日常に非日常を闖入させるシュルレアリスムの原理に通底しているといえます。土方が弟子たちに踊りを振付ける際にとったのも、絵画のイメージを言葉に置き換え、そのイメージと言葉にあわせて踊り手を幽霊や動物、その他様々な物体に変容させていくシュルレアリスム的といえる手法でした。
この点から今回は、土方の舞踏を写真、舞台美術、ポスター、その他の資料によって展観するだけでなく、振り付けのための言葉や複製画を集めたインスピレーションの源泉である土方自身の舞踏ノートと、弟子達が土方の言葉や振り付けを書きとめた舞踏譜などをもとに、土方の舞踏創造の核心に迫ります。さらに、そうした土方の創造の中心であり、本人や弟子たちの稽古場であった、当時のアスベスト館の床 (ゆか) を象徴的に再現し、そこでの舞踏の公開レッスンやパフォーマンスなどを通して、多少でも現在の舞踏を発信する場として役立てばと考えました。
本展が舞踏家土方巽 「抄」 として、彼の舞踏に対するある一つの実験的なアプローチの機会になることを願っています。