百人一首乳母か縁説 元良親王 葛飾北斎 江戸時代 天保6(1835)年 すみだ北斎美術館蔵
「百人一首うはかゑとき」は、乳母が子どもに百人一首をわかりやすく絵解きするため歌意を絵画化した、北斎最後の大判錦絵のシリーズです。この作品は平安時代の歌人元良親王の「わびぬれば今はたおなじ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思ふ」が題材です。本図も歌意と絵の関係性を読み取るのが難しいですが、本シリーズの絵は全体的に難解だったため、27図しか出版されませんでした。
担当者からのコメント
北斎は文政年間(1818-30)になると、動物の目を特徴的に描くようになります。いくつか種類がありますが、本図のように、への字に目尻を細くした目であったり、ボリューム感のあるつぶれた丸い形の目であったりします。黒目にも形をつけて表情をだしています。全体的にぬめりとしたような目で、どこか遠くをみているようにみえます。実際の動物の目とは異なりますので、絵画のなかで生きているようにみせるための北斎の手法です。かわいらしくみえる場合や、憎らしくみえる場合もありますが、北斎が描く動物はどこか愛嬌があるように感じられます。南蘋派など諸流派の絵画を勉強し、画道を追及し続けた北斎が描く牛の目にも、ご注目ください。