名所江戸百景 高輪うしまち歌川広重 大判錦絵 安政4年(1857)4月
太田記念美術館牛車のかげで草履をかじる子犬の姿が愛らしい作品。空に架かった大きな虹からは、雨上がりの爽やかな空気が伝わります。
季節あふれる江戸の名所を描いた広重晩年の代表作、「名所江戸百景」の一図。シリーズ完成後に付された作品目録では、秋に分類される作品なのですが、スイカの切れ端が夏の名残を感じさせます。
なお、遠景に見える石垣は外国船の防御のための砲台である台場。幕末の緊迫した世相を象徴する台場と、可愛らしい子犬との対比も見どころです。
担当者からのコメント:画面手前にモチーフを大きく描く大胆な構図は、広重が得意としたもの。また空や海、車輪などに用いられたぼかしの技法、輪郭線がない虹の表現は、摺師にとっても難しいものでした。
和やかな印象の作品ながら、広重の円熟した構成力や摺師の高度なテクニックにも驚かされます。