第20回 辻 央(沖縄愛楽園交流会館 学芸員)
国立ハンセン病資料館の西浦さんからご紹介いただきました沖縄愛楽園交流会館の辻です。
当館は2015年、沖縄県名護市の国立療養所沖縄愛楽園内に開設した資料館です。交流会館は、40年も前から在園者によって公園化がすすめてきた「発祥の地」と呼ばれる愛楽園開園経緯をしめす場所のそばに建てられました。「発祥の地」には、美しい海岸と死後も故郷に帰ることができない骨が納められている納骨堂もあります。
交流会館開館に先立ち、2002年から行われた市民参加型の聞き取り調査の成果をまとめた『沖縄県ハンセン病証言集』(資料編・沖縄愛楽園編)を愛楽園自治会が発刊しています。その成果を基に交流会館はつくられ、常設展示にたくさんの証言が在園者の姿とともに展示されていることが特徴です。私もボランティア調査員の一人として、また自治会雇用の証言集編集事務局研究員として調査編集に携わりました。
新型コロナのパンデミックが明らかにしたように感染症と差別の問題は決して過去のことではありません。療養所で暮らしてきた人の体験は、コロナ禍に生きる私たちに改めて、様々なことを問いかけてきます。
沖縄戦の展示を案内する回復者の平良仁雄さん
私のおすすめミュージアム
ひめゆり平和祈念資料館
おすすめのミュージアムは、沖縄島の南端糸満市にあるひめゆり平和祈念資料館です。個人的な体験ですが、高校時代、過去の自分とはつながらない出来事として沖縄戦を学んで修学旅行に来た私を、今につながる出来事としてつなげてくれた場所がいくつもあります。その一つは、ひめゆり平和祈念資料館でした。遺影に囲まれた静かな空間で、自分と同世代の人々がどのように戦争に巻き込まれ、どのように亡くなったのかを証言を通して知った衝撃は忘れられません。展示を見終わった後に見上げる空や海の碧さが、胸に迫ります。
多くの住民を巻き込んだ沖縄戦を経験した沖縄では、体験記録と記憶の継承に取り組む活動が様々な形で展開され、現在も模索が続いています。体験者の高齢化や減少のなかで、ひめゆり平和祈念資料館は次世代プロジェクトと題し、非体験者への継承を2003年から館として取り組んでいます。非体験者が体験者の体験や記憶をどのように継いでいくことができるのか。その課題は、決して他人事ではありませんし、ひめゆり平和祈念資料館の取り組みから学ぶことが多くあります。
ひめゆり平和祈念資料館 正面
ひめゆりの塔