トーマス・ルフは、デュッセルドルフ芸術アカデミーで、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に学んだ「ベッヒャー派」。ベッヒャー夫妻は、給水塔や溶鉱炉などを客観的な視線で撮影し、機能種別に組み合せたタイポロジー(類型学)の作品で知られ、写真史に大きな変革をもたらすとともに、優れた後進を数多く育成しました。
ルフは、代表的なベッヒャー門下生のひとり。ちなみに2013年に大規模な展覧会が開催された
アンドレアス・グルスキーもベッヒャー派です。
展覧会は、デュッセルドルフ芸術アカデミー在学中の「Interieurs」(室内)、評価を高めた「Porträts」(ポートレート)をはじめ、最新作まで含む全18シリーズで構成。作品の選択はもちろん、展示構成もルフ自身が参加しています。
会場「nudes」シリーズは1999年に誕生。ヌードの撮影はカメラの黎明期から始まっているため、「ヌード写真」は古典的といえるジャンルです。ただ、ネットの普及によって、その流通は大きく変化しました。
ルフの「nudes」シリーズは、ネット上に氾濫しているヌード画像を用いた作品です。元画像の色調を変えたり、ぼかしたり、細部を削除するなどさまざまな加工を施した結果、ヌードの痕跡はわずかです。
「nudes」シリーズルフの最新作が、2015年から発表されている「press++」シリーズです。報道機関から入手した写真原稿の画像面と裏面をスキャンし、画像処理ソフトで1つの画面にしたものです。
中には読売新聞社から提供されたプレス写真を素材とした作品も。こちらは世界初公開となります。
「press++」シリーズ近年はデジタルテクノロジーを積極的に活用しているルフ。写真も自身が撮影していない素材を用いたり(「nudes」「press++」など)、写真を用いない3Dプログラム使ったシリーズ(「zycles」)も進めており、その活動は「写真家」とは言い難いほどです。展覧会にあわせて来日した58歳のルフは精気にあふれており、この先がどこに向かうのかも楽しみです。
東京国立近代美術館での展示は、11月13日まで。東京展の後は、
金沢21世紀美術館に巡回します(2016年12月10日~2017年3月12日)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年8月29日 ]■トーマス・ルフ展 に関するツイート