『ハッピー・マニア』『さくらん』『働きマン』などのヒット作で知られる漫画家・安野モヨコ(1971~)。デビュー30周年を記念した展覧会が、世田谷文学館で開催中です。

会場入口
安野モヨコは東京・杉並区生まれ、伯父は漫画家の小島功です。小学3年生の頃にはすでに漫画家になろうと決意し、ノートに漫画を描き始めたといいます。
高校1年で投稿した漫画が入選。卒業の直前には漫画家デビューが決まりましたが、専属契約した少女漫画誌ではあまり人気が出ず、悩んだ末に23歳でフリーに。フリーになって描き始めた『ハッピー・マニア』が大きな反響を呼び、一躍人気漫画家の仲間入りを果たしました。さらに青年誌、少女漫画、新聞などに活躍の場を広げていきました。

会場には単行本も並びます
展覧会は安野の作品を、相反する漢字で表したテーマにわけて紹介。最初は「女-男」です。
さまざまなテーマの作品を描いている安野ですが、十八番といえるのが男女の恋愛。女性側から、男性側からと、それぞれの視点で反対側の世界を見つめます。ここでは『花とみつばち』『さくらん』『バッファロー5人娘』の原画が展示されています。

「女-男」
続いて「荒-和」。『ハッピー・マニア』は、「ふるえる程のしあわせ」を求めて様々な男との出会いと別れを繰り返す重田加代子(シゲカヨ)が主人公。女性漫画誌でこれほど行動力がある女性を中心に据えるのは革命的でした。一方で安野はイラストレーションの仕事も多く、ここでは静的なイメージをきっちりと描写。「イラストでは空気感を伝えたい」と語ります。

「荒-和」
次は「美-醜」。美への執着は、安野作品に流れる大きなテーマ。『脂肪と言う名の服を着て』は、肥満気味のOLがダイエットにのめりこむ物語。目標は達成するものの心身のバランスを崩し、「美」への疑問を投げかける異色の作品です。他に『ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド』『ジュリービーンズ』『カメレオン・アーミー』なども紹介されています。

「美-醜」
「夢-現」。『シュガシュガルーン』は少女漫画誌「なかよし」で連載した作品。コマ割りを囲むケイ線にオリジナルの飾り罫を使うなど細部にもこだわって、ファンタジーの世界を描きました。一方の『働きマン』は、「働くとは何か」という根本的な現実に真正面から向き合った作品。同時期に連載されていた作品ですが、その世界観は対極にあります。

「夢-現」
最後は「破-創」。あまりにも多くの仕事を受けていた安野は体調を崩し、2008年には『オチビサン』以外の連載をすべて休止。落ち着いた生活を鎌倉の自宅で過ごすようになります。『オチビサン』は紙版画の手法で制作、朝日新聞とAERAで週刊連載だけは続けました。徐々に体調が上向き2013年に『鼻下長紳士回顧録』の連載を開始。2017年には『ハッピー・マニア』の続編『後ハッピーマニア』を掲載。掲載号は即完売になり、同じ漫画が二号続けて掲載される異例の展開になりました。

「破-創」
あまりにも広いジャンルで作品を発表している安野モヨコ。個々の作品に熱狂的なファンがいても、意外と別のジャンルの作品は知られていないかもしれません。展覧会で通してみると、その多彩な創出に驚かされます。
最後に、展覧会公式作品集「安野モヨコANNORMAL」は必見です。衝撃的な自伝的漫画「よみよま」、複雑な家庭環境や病気療養について赤裸々に語った本人のインタビューなどを収録。パートナーの庵野秀明監督のメッセージは、安野さんの体調を気遣う、心うたれる優しいラブレターでした。展覧会会場のほか、一般書籍としても販売中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年7月1日 ]


安野モヨコ ANNORMAL (コミックス単行本)