大阪・天王寺のあべのハルカス美術館で「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展が開催されています。
超絶技巧・・・ものすごい技巧による明治の工芸品と、現代の作家による、やはりものすごい技巧の作品が、七宝、陶磁などのジャンル別に展示されています。
エントランス付近は、さまざまな技法による作品の顔見せです。
【牙彫】安藤緑山《胡瓜》
《胡瓜》(部分)
きゅうりですが、象牙でできています。
2枚目の写真は、葉の裏側から見上げてみたところ。
ツルの先に、細長いうぶ毛のようなものが光っているのが見えるでしょうか。
象牙の彫刻だというのですが、いったいどのように作っているのか…。
作者は安藤緑山(りょくざん)、明治時代の彫刻家です。
近年まで生没年もはっきりとわかっていませんでしたが、2014年の展覧会(『超絶技巧!明治工芸の粋』)を機に、その履歴や作品の所在が明らかになりつつあります。
七宝(しっぽう)
【七宝】並河靖之《鳳凰龍図花瓶 一対》(部分) 清水三年坂美術館蔵
写真は、七宝(七宝焼)の花瓶。
細工の細やかさに、目がくらみます。
金工
【金工】正阿弥勝義《群鶏図香炉(蟷螂摘)》 清水三年坂美術館蔵
金・銀・銅など数種類の金属が使われています。
色金(いろがね)とよばれる、色調をもつ金属による表現は、当時の欧米にはなく、日本の金工は非常に人気があったそうです。
作者の正阿弥勝義(しょうあみ・かつよし)は、もともと刀装具(とうそうぐ)を作っていましたが、明治4年の廃藩置県、ついで廃刀令により仕事を失い、室内装飾品などの制作に転じました。
自在(じざい)
鶴、鯉、昆虫などの置物ですが、関節などを本物通りに動かすことができるそうです。
精巧な伊勢海老が、エントランス付近にも展示されています。
木彫・牙彫
下の2点は、冒頭で紹介した《胡瓜》と同じ作者によるもので、いずれも象牙の彫刻〈牙彫(げちょう)〉です。
【牙彫】安藤緑山《干鱈に鼠》(部分)清水三年坂美術館蔵
【牙彫】安藤緑山《葡萄》(部分)
ここが展示室ではなく家の台所なら、まちがいなく本物と思いそうなぶどう。
眺めていると、「なぜここまで本物そっくりにこだわるのか」と、素朴な疑問もわいてきます。
これについて、京都の清水三年坂(きよみずさんねんざか)美術館館長の村田理如(まさゆき)さんは、“粋(いき)”という言葉で説明されていました。
例えば、質素な着物の裏に派手な柄を入れるような、見えないところへのこだわり、意外性や驚きを伴った美意識―というものです。
最後は、現代の作家による作品が展示をしめくくります。
橋本雅也《タカサゴユリ》(部分)2014年
匂い立つようなユリ。
鹿の角で作られています。
春田幸彦 有線七宝錦蛇革鞄置物《反逆》(部分)2017年
蛇革バッグから、ぬっと突き出た頭。七宝の作品です。(〈七宝〉のコーナーで展示されています)
作る人の思想のようなものが現れているのは、現代ならではという感じがします。
作者の観察眼、技巧、ものづくりへのこだわりと執念…どれをとっても自分の想像をはるかに超えており、まさに驚異、超絶技巧の名にふさわしい展覧会でした。
微細な世界のすみずみまで確認されたい方には、一眼鏡などの使用をおすすめします。
ほとんどの作品について、その真髄は細部にある…と感じます。
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tomokoy
京阪神を中心に、気になる展示をぷらぷら見に出かけています。
「こんな見方も有りか」という感じでご覧いただければと思います。
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