浮世絵のジャンルで「美人画」は有名ですが、美男は? 実は、美しくてカッコいい男性も浮世絵には頻繁に登場します。
前髪を残した元服前の美しい少年「若衆」、歌舞伎役者の看板で一枚目に主役、二枚目に美男役を配したことに由来する「二枚目」、粋でしゃれた「伊達男」。展覧会では三章にわたって美男が続々と登場します。
会場
男性を魅力的に描いた絵師も、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川国芳など多数。
会場にはさまざまな時期の浮世絵が並ぶので、墨一色の墨摺絵、墨の部分に膠を入れた漆絵、多色になった紅摺絵、そして錦絵と、時代ごとの表現も楽しむことができます。
奥村政信《二人虚無僧》、鈴木春信《桜》、鈴木春治《立美人と若男》
凛々しい眼差しの大首絵は、歌舞妓堂艶鏡(かぶきどうえんきょう)の三代目市川八百蔵。展覧会のメインビジュアル(8月1日からの後期展示)は別ですが、そちらも同じ八百蔵が演じる梅王丸の大首絵。絵師も同じ艶鏡です。
三代目市川八百蔵は、没後に記された評判記で五代目松本幸四郎、三代目尾上菊五郎とともに「姿かつかうのよい人」、すなわちイケメンと評された人物。なるほど、なかなかの男前です。
歌舞妓堂艶鏡は謎の多い人物で、遺作は7点しか確認されていません。写楽に触発されたともいわれる大首絵を遺しています。
歌舞妓堂艶鏡《三代目市川八百蔵》
彫物は水滸伝からの影響で、18世紀後半から流行しはじめました。
幕府は風俗を乱すとして禁止しましたが、侠客、博徒、鳶、火消し、飛脚、駕籠かきなど、普段から肌を露出する機会が多く、力を必要とする人たちの間では人気が衰えませんでした。
歌川国貞(三代歌川豊国)《戻駕篭櫓三真意》 彫物は漢(オトコ)の身だしなみです
担当学芸員の赤木美智さんは、まず「見た目の美しさ」で展示作品を選んだところ、前述の評判期に上げられている三代目市川八百蔵、五代目松本幸四郎、三代目尾上菊五郎を見事にピックアップできた、との事。
200年以上時代が変わってもイケメンはイケメンである、と解説されていましたが、赤木さんの男を見る眼もなかなかです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年7月1日 ]