明治時代、さまざまなジャンルで精巧な工芸作品が生まれ、それらは現在“超絶技巧”と呼ばれ人気を集めています。そんな明治工芸の技巧を受け継ぎつつ、新たな感性を取り入れて制作された作品を紹介する展覧会が、三井記念美術館で開催中です。
展覧会は、三井記念美術館を皮切りに全国を巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展(2014-2015年)、「驚異の超絶技巧! 明治工芸から現代アートへ」(2017-2019年)展につづく「超絶技巧」シリーズの第3弾。今回の展覧会では、金属や木、陶磁、漆、ガラス、紙など様々な素材を用いた現代作家17名による64点を、明治工芸の逸品と共に紹介しています。
三井記念美術館「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」会場
まず紹介するのは、福田亨による木彫作品。着色をしないことにこだわっている福田の作品は、木材の自然の色を組み合わせることで蝶の羽を表現。独自に編み出した立体木象嵌という技法でつくられています。
蝶が乗っている台座の部分は、一木で掘り出されたものです。水滴の部分に注目すると、厚みを残した板にツヤを出して表現していることがわかります。
福田亨《吸水(部分)》2022年
稲崎栄利子は、インド神話で不死の霊薬を意味する陶磁作品《Amrita》を制作。非常に繊細なこの作品は、微細なパーツを継ぎ合わせてつくられています。袋状のパーツは、信楽透土でつくったリングの集合にテグスを通して、巾着のような機能をもたせています。
稲崎栄利子《Amrita》2023年
展覧会のポスタービジュアルになっているのは、大竹亮峯の《月光》。鹿角を使い、1年に1度、夜にだけ大輪の花を咲かせる月下美人を表現。花器に水を注ぐと、ゆっくりと花が開く驚きの仕掛けがある作品です。
大竹亮峯《月光》2020年
切り絵による制作をおこなっているのは、盛田亜耶。ボッティチェリへのオマージュとして作られた作品は、2017年に制作した「ヴィーナスの誕生」の続編です。モデルの目線やポーズを微妙に変え、樹木が絡みついた空間の中にヴィーナスを象徴する動植物が共存しています。離れたり、近寄って見ることで立体感を感じることができます。
盛田亜耶《ヴィーナスの誕生II》2022年
展示室3に現れるのは、本郷真也による一対の龍を表した自在の作品です。鉄の鍛金を使用しながらも、軽やかに雲間を飛ぶ龍の様子を表現しています。胴体には125個ものリング状の部位をつなぎ合わせ、首や四肢は動かすこともできます。台座部分は、2体の龍を動かす装置にもなっています。
本郷真也《円相》2023年
展示室の奥には、生きているかのような犬の毛並みが表現された吉田泰一郎の作品を展示。銅を中心にリン青銅、銀メッキ、七宝を駆使した作品。切り抜いた金属の破片をパーツとして立体的に再構築しています。
吉田泰一郎《夜霧の犬》2020年
こちらは、まるで本物と見間違えそうな実物大の爪楊枝。茶道具制作の金工師の4代目・長谷川清吉(1982-)は、取得した技術を如何なく発揮できる方法を模索し、“使い捨ての工業製品”シリーズを手がけています。真鍮で作られた爪楊枝は、見た目より重さを感じる仕上がりになっているそうです。
長谷川清吉《真鍮製 爪楊枝》2023年
繊細なガラスのインスタレーションは、青木美歌による作品です。チューブやガラス棒を用いて、卓上のバーナーでガラスを溶かしながら制作していくバーナーワークの技法で作られたもので、作品自体がまるで空中に浮遊しているかのように感じられます。
青木美歌《あなたと私の間に》2017年
会場では、明治時代を代表する工芸品も紹介しています。本物の果物や野菜を思わせる牙彫を生み出したのは、安藤緑山。得意とした枝付きの柿は、変色した部分やそり返ったヘタ、皮についた黒いキズなど、細やかな描写がされています。
日本を代表する木彫りの町、富山県南砺で生まれた井波彫刻を生業とする家に生まれた岩崎努も、安藤緑山に通ずる緻密でスーパーリアルな表現をおこなっています。並んだ2つの作品をぜひ見比べて鑑賞してみてください。
安藤緑山 (左から)《無花果》《貝尽》《松竹梅》《柿》
岩崎努《嘉来(柿)》2019年
一見見ただけでは見逃してしまうほどの超絶な技巧が施された作品の数々。展覧会は東京での開催の後、富山県・山口県・山梨県へ巡回予定です。精緻な超絶技巧を目の当たりにしてみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2023年9月11日 ]