これはアート?デザイン?美術館でデザインとアートの境界線を探す小さな旅はいかがですか。
展示風景
大阪中之島美術館開館1周年記念展「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」が始まりました。約70名の作家による110点の作品を追いながら、アートとデザインの”重なりしろ“を考えようというコレクション展です。
展示風景
絵画、家具、ポスターなど多彩な作品が並んでいます。ん?作品にキャプションがない。これはアートなのかデザインなのかどうやって知ることができるの?
(手前より)自動式電気釜/RC-10K(東京芝浦電気株式会社)公益財団法人日本デザイン振興会蔵 扇風機/20B1(松下電器産業株式会社)パナソニックグループ蔵
上の写真は1950年代に発売された炊飯器と扇風機です。「かわいい」「懐かしい」または「斬新」と思う人もいるでしょう。ではこれはアートかデザインかと問えば、どうですか。私は「デザイン」と考えます。
ではこの作品はどうでしょう。
赤瀬川原平《風》1963年 再制作1985年 東京都現代美術館蔵 ©Genpei Akasegawa
赤瀬川原平の作品《風》という作品です。扇風機が紙と紐で梱包されています。先ほどの炊飯器や扇風機をデザインとするなら、それを包んでいるだけなのでデザイン?いや美術家が制作したのだからアートなのでは。
私自身はアートと感じました。理由は…つまってしまいます。なぜこれをアートと捉えるのか。赤瀬川原平が手掛けたから?それは先入観かも。アートかデザインかという問いのとんでもない深みにはまっていきます。
装置を動かして自分の考えを表してみよう
本展の大きな特徴は、作品付近に設置されている装置にあります。右に「アート」、左には「デザイン」と表記されたスライドがあり、作品をみて自分が感じたところへ中央のボタンを移動させる仕組みです。ボタンを操作しながら、それぞれの作品をどう意識しているのかがわかります。
会場風景
吉岡徳仁《Honey-pop》2001年 東京都現代美術館蔵 ©Tokujin Yoshioka
吉岡徳仁の椅子《Honey-pop》はデザインにスライド。いや、待てよ。椅子と知らなかったらどう思うのかな。天使の羽根、または春の雪溶けを表現している立体彫刻と思うかも……。知っている作品を今まで考えたこともない見方をする自分に気づきました。新鮮です。となると、この作品のスライドボタンはどこに位置させる?悩ましい!
内田繁《TENDERLY》1986年/2006年 内田デザイン研究所蔵
名和晃平《PixCell-Sheep》2002年 和歌山県立近代美術館蔵 ©Kohei Nawa
1990年準備室の創設以来、大阪中之島美術館はアートとデザインを収集するという役目を担っています。菅谷富夫同館館長は「この2つの領域の線引きは難しく、境界があるのかどうかという自問を繰り返している。」と言い「1周年展として、単にアートとデザインのコレクションを見せるのではなく、この大きな問題に取り組む決意表明的な意味合い」として本展を位置づけたと話します。
会場最後には鑑賞者がスライドで示した結果の集計が表示されます。
本展図録はバインダー式でユニーク
従来のように美術館の研究成果を観て学ぶのではなく、鑑賞者ひとりひとりが考え、示し、共有するという新しい形の展覧会。この展覧会もデザイン?いやアート?みんなで考えてみましょう。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2023年4月14日 ]
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