楠(くすのき)でつくった動物の肖像彫刻で知られる、はしもとみお(1980-)。創作の手跡が残る力強い造形の動物たちは、生きているかのような生命力に溢れています。
多くの作品で、はしもとならではの作品世界を紹介する展覧会が、武蔵野市立吉祥寺美術館で開催中です。
会場に入ると、展示室の前から作品が登場します。
ここはテントが並ぶ「森町」。マレーグマやオランウータンなど、大きな動物たちがすんでいます。
はしもとさんは兵庫生まれ。幼少期には獣医を志していましたが、阪神淡路大震災で亡くなった動物たちを目の当たりにしたことで、命のかたちを残すことができる、美術の道に進みました。
東京造形大学から愛知県立芸術大学大学院へと進学。一貫して動物の彫刻に取り組んでいます。
展示室に入ると、さまざまな動物がずらり。「いきものたちの交差点」のタイトルどおり、交差点をイメージした会場構成です。
左手は「猫町」。階段のあちこちで、さまざまなポーズのネコがくつろいでいます。
「動物の命」をテーマに創作を続けているはしもとさん。作品に近寄ってみると、木彫ならではの荒々しさを残しながらも、今にも動き出しそうな存在感が印象的です。
今回の展覧会では、多くのスケッチも展示。細部まで描きこまれたスケッチからも、動物に対するはしもとさんの眼差しが感じられます。
展覧会の目玉といえるのが「わさお」です。
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町で飼育されていた秋田犬で、ネットで「ブサかわ犬」として有名になった「わさお」は、2020年6月に惜しまれながら死去。銅像の原型制作の依頼を受けたはしもとさんが木彫として蘇らせると、あまりのリアルさに飼い主の方が歓喜し、その感動的な物語は「情熱大陸」で放映され、話題になりました。
他にも会場にはさまざまな動物が並びます。
リアルなポーズの動物もいれば、楽器を奏でるなどフィクションのポーズの動物も。また、大きな作品だけでなく、数センチほどの小さな作品もありますが、どれもあたたかな思いに溢れています。
命が持つ形の美しさに魅せられて、創作を続けるはしもとさん。会場では創作中の映像も紹介されていますが、木の塊に真っ向から挑むような凛々しい姿が印象的でした。今後の活動も楽しみです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年8月26日 ]