約80件(会期中通して)の肉筆画を、全8章で紹介する本展。重要文化財や重要美術品、そして新発見・再発見作品も含まれる、豪華なラインナップです。
第1章は「初期風俗画と岩佐又兵衛」。浮世絵のルーツは、世相を描いた風俗画。人物の描写が集団から複数、そして個人へと関心が移り、浮世絵の美人画が生まれました。
第2章「菱川師宣の登場」。安房国生まれの菱川師宣は、江戸で絵師として成功。ここに浮世絵が成立します。菱川派、懐月堂派、宮川派が、初期の浮世絵美人画を盛り立てていきました。
第3章「爛熟する浮世絵」。多色摺版画があらわれると、浮世絵はさらに流行。絵師たちの活躍の場が広がるに連れ、肉筆画の需要も拡大しました。ここでは勝川派、北尾派、鳥居派などが紹介されます。
第4章「西川祐信と京・上方の美人画」。上方の浮世絵は、版画よりも肉筆画の方が先行しました。西川祐信、月岡雪鼎、そして祇園井特と、江戸とは異なる独特の濃さが魅力的です。
第5章「喜多川歌麿と鳥文斎栄之」。寛政期の美人画といえば、歌麿と栄之。歌麿の肉筆画は多くありませんが、本展では半世紀ぶりに《隈取する童子と美人図》が出品(後期展示)。栄之の美人画は、旗本出身ならではの品の良さが特徴といえます。
第6章「葛飾北斎とその周辺」。富嶽三十六景をはじめ、風景画で名高い北斎。40代の頃には、美人画の肉筆画を多く手がけていました。この章には北斎と弟子たち、そして同時代の菊川英山や溪斎英泉などの作品が並びます。
第7章は「歌川派王国の浮世絵師」。歌川豊春から始まる歌川派。門人の豊国、豊広。孫弟子に国貞、広重、国芳。その先も近代まで繋がる一大勢力です。
第8章は「めくるめく春画の名品」。男女の営みを描いた春画は、名だたる多くの浮世絵師が手がけています。春画は大衆向けの版画もありますが、その性質上、貴人からの注文制作も多く、肉筆画の名品も少なくありません。葛飾北斎の《春愁図》と《閨中交歓図》は、新発見の作品です。
8章を除くと展示はほぼ年代順で、美人画をテーマに浮世絵史を通覧できる構成。浮世絵の流れを理解する上でも、意義深い展覧会だと思います。
美術館は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、現在休館中ですが、全作品(春画も含む)の解説付図録は、公式サイトでネット販売中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年4月4日 ]
※一部の作品は前後期で展示替えされます。