企画展示室に入ると、圧巻のインスタレーションが始まります。大きく上部に広がった作品をはじめ、半球を伏せたような作品(2点)、奥には背の高い作品。4つの白い塊が、響き合うように並びます。
「塊」と書きましたが、作品はメッシュ状に透けており、軽やかなイメージです。照明に近い上部が目立つので、床面から浮いているようにも感じます。
石田智子さんは大阪生まれ。京都精華大学美術学部染織科を卒業し、当初は布を使って作品を制作していました。
1991年に嫁いだ先が、郡山市に隣接する三春町の福聚寺 。芥川賞作家で僧侶の玄侑宗久氏が住職を務める、臨済宗妙心寺派の古刹です。
「寺の生活」というと、ゆったりした時間が流れるようにも思えますが、実際は真逆です。家事や作務など日常の仕事に追われる毎日で、じっくりと作品を作る時間は皆無。また、広々としたお堂はあっても、制作ためののスペースは殆どありません。
そんな中で石田さんが辿り着いたのが、紙撚を使った作品でした。参拝者が持参するお供え物の包装紙から、人々の想いを作品に込めることが出来るのでは、と考えたのです。
短冊状に切った紙を水に浸して、捻って紙撚に。これなら小さなスペースで作業できますし、作業の途中でも中断できるため、日常の生活と共存できます。
そうして作り溜めた紙撚を、今回の展覧会では15万本も使いました。会場にあわせた構成で、独自の世界が広がります。
今回の会場では、展示室の壁面に展示ケースがありましたが、石田さんはあえてこのケースを隠さずに、作品を設置。美術館の展示ケースは映り込みが少ない特殊なガラスを使っているため、作品や鑑賞者がほどよく映り、広がりがある世界が生まれました。
インタビューにもあるように、注目して欲しいのが、床への映り込みと影。床を見ながら作品に近寄ると、床面に映っていた作品が見えなくなり、影だけが目に入るように。計算された、照明の絶妙な効果です。
隣のゾーンに進むと、一変して別の世界に。横に広がる波のようなフォルムで、大きな作品が1点だけ佇みます。
感じ方が異なるのは、照明の違いもあります。前の部屋のハロゲンが暖かな印象だったのに対し、ここでは色温度が高い寒色系のLED照明を使いました。波打つ板状のフォルムの中央部分を暗めにし、外周の縁が際立つように。離れた場所にベンチがあるので、ぜひ座って鑑賞いただければと思います。
企画展示室の最後と、展示室前のホールにも作品があり、こちらは、シュレッダーにかけられた紙、印刷のミスプリント紙、輪切りにした紙管などを利用。震災後に三春町に避難してきた葛尾村の女性たちや、地域の小中学生など、多くの人たちと一緒に作った作品もあります。
展覧会は撮影自由。来館者は近寄ったり離れたり、さらに上から、かがんでと、思い思いにシャッターを切っていました。
県庁所在地ではない都市の美術館としては、特筆すべきミュージアムのひとつである郡山市立美術館。設計は東京都現代美術館などで知られる柳澤孝彦で、公共建築百選に選ばれている美しい建物も魅力的です。
東京から郡山まで、新幹線なら1時間半弱。首都圏の美術ファンにも強くおすすめしたい展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年3月8日 ]