中央ヨーロッパの内陸国、ハンガリー。首都ブダペストは「ドナウの真珠」と称えられる美しい都市です。ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは西岸のブダに、ブダペスト国立西洋美術館は東岸のペストに位置します。
展覧会は大きく「ルネサンスから18世紀まで」「19世紀・20世紀初頭」の2部構成。さらにそれぞれが小章に分かれ、計15のコーナーで130点が展示されています。ここでは注目の作品を何点か、ご紹介しましょう。
《不釣り合いなカップル 老人と若い女》(1522年)は、ドイツ・ルネサンスを代表する画家、ルカス・クラーナハ(父)の作品。老いた男は若い女性を求め、女性は男の財布に手を伸ばす。どっちもどっち、と言ったところです。クラーナハ(父)は教訓的なこの画題を、数多く描いています。
ギリシャに生まれ、スペインで活躍したマニエリスムの巨匠、エル・グレコ。《聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)》(1600年頃)はキリストの十二使徒を描いた12点組の連作(オビエド、アストゥリアス美術館)の習作です。細部の見事な描写から、以前は画家の自画像とみなされていたこともありました。
本展メインビジュアルが、シニェイ・メルシェ・パール《紫のドレスの婦人》(1874年)。モデルは、シニェイ・メルシェ(ハンガリー語の名前は姓・名の順です)の妻で、「ハンガリーのモナ・リザ」とも称される美しい作品です。
「野外で余暇を楽しむ、着飾った都会の男女」は、この時代を席巻した印象派の画家たちもしばしば描いていますが、シニェイ・メルシェはパリに行った事がありません。遠く離れた地で、同じような目線を持っていた事になります。
ヴァサリ・ヤーノシュは、ハンガリー世紀末美術の画家。《黄金時代》(1898年)は、額の装飾文様も画家によるデザインです。この作品は1898年にハンガリー国民美術協会の最高賞に。そして1900年のパリ万国博覧会では、銅メダルを受賞しました。
一番最後の展示室ですが、見逃せないのがクルト・シュヴィッタース《メルツ(ボルトニクのために)》(1922年)。制作中のコラージュから偶然読み取れたMerz(メルツ)を芸術活動のテーマにした作家です。メルツ絵画、メルツ建築、メルツ詩、雑誌『メルツ』の発行まで、一貫して「メルツ芸術」と称する前衛的な芸術活動を実践しました。
出展されている130点を選ぶにあたり、ハンガリー人になったつもりで見てもらえる作品をピックアップした、との事でした。巡回はせずに、国立新美術館だけでの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年12月3日 ]