展覧会は中世から現代まで、さまざまな地獄の表現を展観する企画。「恐ろしい地獄絵」はもちろんですが、あえて「恐ろしくない地獄絵」まで網羅的に紹介しているのがポイントです。
まずは現代の地獄絵として、水木しげるの絵本「水木少年とのんのんばあの地獄めぐり」から。奥の《往生要集》は平安時代の天台宗の僧・源信の著作で、ここに記された地獄の様子が、日本における地獄イメージの元祖といえます。
続いて、往生要集に基づいた地獄絵・六道絵を紹介。「六道」は生前に行った善悪によって振り分けられる6つの世界で、最悪が地獄道。地獄には犯した罪によってさらに8段階あり、切る・刺す・潰す・焼く・茹でると、おぞましい責め苦が展開されます。
展示室1・2・4続いて、地獄の構成メンバー。あまり知られていませんが、有名な閻魔大王は六道への転生先を決める十王のひとり。三途の川を渡る前に亡者の衣服を脱がせるのは、奪衣婆(だつえば)です。
中世以降になると、地獄のイメージはひろがっていきます。「地獄めぐり」の物語や、山岳信仰と結びついた山中の地獄絵など、さまざまな世界観を獲得。地獄や極楽の様子を絵解きで広めた女性宗教者の熊野比丘尼も、地獄イメージの拡散にひと役買いました。
展示室4・5中世も後半になると、信仰は庶民階層まで拡散。分かりやすい表現が求められた事もあり、地獄のイメージも恐怖から離れ、くだけた描写が見られるようになります。
江戸文化の円熟期になると、さらに地獄はユルユルに。絵入りの読み物である「黄表紙」では、すっかり笑いの対象になってしまいました。
地獄尽くしの展覧会ですが、最後は極楽浄土を描いた作品です。苦しみの輪廻を超えて、仏が住まう浄土へ。美しい浄土教美術には、人々の祈りと願いが込められています。
展示室7展覧会とともにお勧めしたいのが公式図録(2,000円)。楽しいイラスト入りで、地獄の世界観が解説されています。
展覧会は8月8日(火)から後期展示。多くの作品が展示替えされていますので、ご了承ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年7月14日 ] | | 東京美術館案内
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