女帝・孝謙上皇(後に称徳天皇)の発願で建立された西大寺。平安時代には疲弊しましたが、鎌倉時代に叡尊(えいそん)によって復興。各地に勢力を広げ、大きく発展しました。
西大寺一門の大規模展としては、1990年以来四半世紀ぶりに開催される本展。まずは密教で用いられる法具などの紹介の後。奥に進むと国宝《金銅透彫舎利容器》が鎮座しています。
厨子は宮殿型で、上部には火焔宝珠。周囲は精巧な透彫で、龍・牡丹・菊など各面で異なる意匠が施されています。叡尊周辺でつくられた舎利容器としては、最高傑作と評されています。
展示室1~2展示室4には仏画や彫刻が登場します。
《興正菩薩坐像》は昨年国宝に指定されたばかり。平安時代に荒廃の憂き目にあった西大寺を鎌倉時代に再興した叡尊(えいそん)を現したもので、善派の仏師・善春が、80歳の叡尊をリアルに表現しました(興正菩薩は叡尊の諡号です)。鎌倉肖像彫刻の白眉で、この像をもとに多くの興正菩薩坐像が造像されました。
重要文化財《愛染明王坐像》は、西大寺愛染堂の秘仏本尊。こちらは善円(善春の父)の作です。像高31.8センチと決して大きくはありませんが、その表情はなかなかの迫力。各所に彩色が残っている点でも大変貴重な逸品です。
展示室4最後の展示室7は、さらにボリュームたっぷり。これほど仏像彫刻の密度が高い展示室も、珍しいのではないでしょうか。
正面の坐像は《太山王坐像》。太山王は冥界で死者を裁く十王の一人で、力感あふれる表現は康円による造像です。康円は運慶の孫。「慶」の字は付きませんが、慶派の仏師です。
全国巡回の本展では、地域にあわせた出展もあり、東京展では東国に広がった真言律宗の仏教美術が紹介されています。
福島・長福寺の《地蔵菩薩坐像》は院誉の作。院誉らの院派は京都で活躍していた仏師ですが、真言律宗のひろがりとともに東国に拡散していきました。
展示室7奈良国立博物館では
「快慶」展が開催中、秋には
東京国立博物館で「運慶」展と、今年は鎌倉彫刻の展覧会が目白押し。本展にも数多くの鎌倉彫刻が出ていますので、彫刻好き・仏像好きにはたまりません。
取材の時には展示されていませんでしたが、京都・浄瑠璃寺の秘仏で重要文化財の《吉祥天立像》は6/6~6/11に登場。公式サイトで見ると、ふっくらとした顔つきと豪華な着衣の表現が印象的です。他も展示替えが多いので、見たい作品が決まっている方はご注意ください。
東京展の後は大阪、山口と巡回します。各会場と会期は
こちらでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年4月19日 ]■西大寺展 に関するツイート