平田さんは1937(昭和12)年、東京生まれ。戦時中に奈良に移り、大阪で設備会社に就職。機械いじりが趣味で、意外にも漫画には全く興味が無かったといいます。
21歳の時に原稿料に惹かれ、一晩で描き上げた「愛憎必殺剣」でデビュー。貸本漫画で活躍を始めます。
他の漫画家の作品を読まず、日本画などのバックボーンもない平田さんが参考にしたのが、時代小説の挿絵。ストーリーも歴史書や古文書を解読して組み立てるなど、独特の手法で自らのスタイルを確立させていきます。
会場入口から
ほどなく貸本漫画は下火になりますが、上京して新たな分野へ。劇画ブームの風に乗り、下級武士を主人公にした時代劇画で、大いに人気を博します。
正確で緻密な時代考証が平田作品の魅力ですが、納得するまでペンを取らない事もあって、自然と遅筆に。編集者の間では「手塚治虫と平田弘史は特別」とされ、製版所の担当者が自宅に来た事までありました。
平田さんの作品にしばしば登場するのが、切腹シーン。実は平田さんは麻酔なしで盲腸の手術を受けた事があり、臓物を引っ張られる感触を覚えているといいます。自らの体験を参考にしたリアルな切腹シーンは、あの三島由紀夫も絶賛していたと伝わります。
劇画作品の数々
多くの傑作を世に送り出している平田さんですが、こごては「薩摩義士伝」をご紹介しましょう。
幕命により薩摩藩が行った江戸時代最大の治水工事を描いたもので、史実に基づいた作品。横暴な幕府に対し、莫大な費用に苦しみながら難工事に立ち向かう誇り高き薩摩藩士を、抜群の画力で描きました。
「薩摩義士伝」
会場には作品名を記した見事な書も展示されています。これらは全て、平田さんが本展のために書いたものです。
劇画の書き文字から生まれた、平田さんの書。独学ですが、思いを叩きつけるように表した力強い書は人気が高く、大友克洋さんの「AKIRA」のカタカナ題字など、会場には書だけの仕事もずらりと並んでいます。
最近の仕事としては、昨年9月に発売されたGReeeeNのアルバム「縁」が、平田さんによるものです。
書の作品
会場2階には、小さなペーパーフィギュアを作れるコーナーも用意されています。武者のフィギュアにメッセージと顔を書いて、踊り場に用意された台に貼り付けると、平田先生を応援する軍団の一員になる、という趣向です。
取材に伺ったのは開幕から3日目ですが、すでに大軍団が揃いつつありました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年1月5日 ]
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