バレエ、神話、歴史、ホラー、エッセイなど、幅広い分野の作品でファンを魅了する山岸凉子さん。最初にご紹介するのは、一世を風靡した「日出処の天子」です。
主人公の厩戸王子(後の聖徳太子)は妖艶な美少年で、蘇我毛人(蝦夷)を慕う同性愛者という衝撃的な設定。連載が始まった1980年は聖徳太子は「1万円札の人」であり、少女漫画の世界観とは真逆といえる存在でしたが、繊細な描写は物語にリアリティを持たせ、熱狂的な支持を受けました。
1984年まで連載され、第7回講談社漫画賞少女部門を受賞。連載中は「熱量みたいなものが落ちて」きたそうで、ご自身も“のって”描いた作品と言います。
「日出処の天子」山岸さんの名を世に知らしめたのが、1971年に発表されたバレエ漫画の「アラベスク」です。
「主人公のトゥシューズに画鋲が入れられる」などが定番のバレエ漫画は、すでに時代遅れ。編集部も難色を示し「3話で終わらせるなら」と言われて始まりました。
自身も幼少の頃からバレエを習っていた山岸さんは、バレエを厳しく追及する姿を、正確な身体描写で表現。読者の人気投票で1位となり、3話で終了どころか「できるだけ長くのばして」と編集に懇願されました。
「アラベスク」会場2階では、デビューから近作まで約50年の歩みが一気に紹介されています。
北海道で生まれ育った山岸さん。同学年の里中満智子さんが16歳でデビューした事に衝撃を受けて漫画の道へ進む事を決意します。出版社に作品を持ち込み、1971年に「レフトアンドライト」でデビュー。まだ21歳でしたが、当時は10代でデビューする少女漫画家が多く、非常に焦っていたと言います。
デビュー当初は作風も大分違いますが、これは「丸い顔の絵」でないと受け入れられない事が分かっていたため。もちろん表現力も向上していますが、キャラクター描写については「絵が変わった」のではなく、「本来の絵に戻った」という方が正確かもしれません。
デビューから『ASUKA』での仕事まで47歳でバレエを再開した山岸さんは、2000年から再び長編のバレエ漫画「テレプシコーラ -舞姫-」を連載。ローザンヌ国際バレエコンクールを何度も取材するなど丹念に世界観を作り上げ、2007年に第11回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しています。
2000年代には「ヴィリ」「言霊」「ケサラン・パサラン」などを執筆し、2015年からは『モーニング』で「レベレーション(啓示)」の連載を開始。山岸さんの作品で女性が主人公の場合は、比較的弱いタイプが多い中、本作の主人公は強い女性の代表格ともいえるジャンヌ・ダルク。今後の展開も注目されます。
2000年代の作品若い頃は“原稿料はすべて資料に注ぎ込む”と決めていた、という山岸さん。洋書の画集を買い求めては熱心に研究しており、ビアズリー、ミュシャから琳派まで、先人の絵画から想を得た作品も見事です。
展覧会にあわせて初の本格的な画集も刊行されており、こちらは会場でも販売されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年10月3日 ]※会期中展示替えがあります
前期:9月30日(金)~10月30日(日)
中期:11月1日(火)~11月27日(日)
後期:11月29日(火)~12月25日(日)
※前期と後期の展示作品は同じです。
※全体の構成はほぼ変わらず、展示される原画が入れ替わります。
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