美術ファンの枠を超えて、知名度が高いエッシャーのだまし絵。逆に、版画家としてのエッシャーの歩みは、美術ファンにも意外と知られていないかもしれません。
オランダ生まれのエッシャー、フルネームはマウリッツ・コルネリス・エッシャーです。日本にもファンが多いエッシャーですが、実はエッシャーの父(土木技師)は「お雇い外国人」として来日した事があり、日本とは意外な接点があります。
はじめは建築を学んでいましたが、学校でサミュエル・ド・メスキータに出会って版画に目覚め、版画コースに進みました。
メスキータは同時代のオランダを代表する版画家ですが、戦後は徐々に忘れられ、日本ではほとんど紹介されてきませんでした。エッシャーは卒業後もメスキータを慕いましたが、ユダヤ人だったメスキータはナチスによってアウシュヴィッツに送られ、亡くなっています。
1章「エッシャーとメスキータ」エッシャーは学校を卒業後イタリアへ渡ります。この地で結婚し、ローマで10年暮らしました。
イタリアの険しい山や、断崖絶壁に立つ町などに魅了されたエッシャーは、各地でスケッチを重ね、風景版画を制作しました。この時期の作品はだまし絵ではありませんが、極端な俯瞰の構図や、ステップ状のかたちの連なり、そして何よりも画面を覆うどことなく不気味な雰囲気は、後のだまし絵にも繋がっていきます。
2章「イタリア周遊時代」イタリアで台頭するファシズムを避けて、エッシャー一家はスイスに移住。ベルギーを経て、最終的には母国であるオランダに戻りました。
お馴染みの作風に移行したのは、1936年から。イスラム様式で知られるスペインのアルハンブラ宮殿を再訪した事を機に、数学的な趣向を用いた独自の世界観を確立しました。
本展では「鏡面」「奇妙な生き物」「平面の正則分割」「変化するかたち」「無限性」「不可能な遠近法」「二次元と三次元の交差」「正多面体」の8つのテーマで作品を紹介。反対向きに水が落下している《滝》の習作など、構想段階のスケッチなどが展示されているものもありますので、比べてお楽しみください。
3章「エッシャー独自の世界」会場には写真撮影コーナーもあり、大きな《もう一つ世界》と《滝》の前で記念撮影が可能です。子ども向けには「わくわくガイド」も用意、会場出口には錯視画の体験コーナーも設定されています。
写真撮影コーナーも本格的なエッシャーの展覧会は、2006年にBunkamura ザ・ミュージアムで開催された「スーパーエッシャー展」以来、10年ぶり。本展は全国巡回展ですが、関東地方は
茨城県近代美術館のみです。会期はわずかに5週間、お見逃しなく。(
他の会場と日程はこちらです)
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年6月7日 ]■無限迷宮への夢 エッシャーの世界 に関するツイート