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    レポート
    青木野枝 霧と鉄と山と
    府中市美術館 | 東京都
    東京では20年ぶりの大規模展
    鉄や石膏といった固く重い素材で、展示室いっぱいに広がる大規模な彫刻。言葉で書くと重厚な印象ですが、とても軽やかに感じられるのが彫刻家・青木野枝(1958-)さんの作品です。東京では20年ぶりとなる展覧会が、府中市美術館で開催中です。
    青木野枝《霧と鉄と山 ― Ⅰ》(部分)2019年
    青木野枝《霧と鉄と山 ― Ⅰ》2019年
    青木野枝《立山/府中》2019年
    青木野枝《霧と山 ― Ⅱ》2019年
    青木野枝《untitled》1981年(9点)
    青木野枝《曇天1》《曇天2》2019年
    青木野枝《霧と鉄と山 ― Ⅱ》2019年
    (手前から)青木野枝《原形質》2012年 / 青木野枝《untitled》1992年
    青木野枝《(スケッチブック)》1987~2019年

    大気や水蒸気などをモチーフにした作品で知られる青木野枝さん。展覧会は新作をはじめ、石膏を用いた「原形質」シリーズ、最初期の丸鋼で造形した彫刻などを紹介し、創作の全容に迫ります。


    青木さんは1958年、東京都生まれ。武蔵野美術大学で彫刻を学び、美術館での個展や芸術祭などで積極的に活動しています。府中市美術館では2007年に公開制作を行いました。


    展示は1階のエントランスホールから始まります。入口右手の《立山/府中》は、市民から集めた石けんを積み上げた作品。使った人の生活の痕跡が残る、石けん。重なった石けんからは、名も知らぬ人たちの時間と記憶が透けてくるようです。



    展示室入口近くの《untitled》は、1981年、大学院に進学した時期に制作された作品です。この頃は、既成の鉄の丸棒を使っていました。線でかたちをつくり、内部は空洞。軽やかな作風は、後の作品にも通じます。


    展示室に入ると、右手と左手奥に《霧と鉄と山 ― Ⅰ》《霧と鉄と山 ― II》。リング状の円が繋がり、人の高さをはるかに超える作品ですが、こちらも内部には大きな空洞が。展示室の空気が、作品に取り込まれているようです。


    リング状のパーツは、青木さん自身が鉄板から溶断して切り出しています。「鉄の断面が初めてこの世界の空気にふれたかたち」であるバリ(溶けた鉄がついたもの)も、残ったまま。近くで見ると、鉄のワイルドさも感じます。


    青木さんの作品は、会場にあわせて制作されます。事前のリサーチでイメージを膨らませますが、あえて完成形は決めません。パーツをスタジオから現場に運び、最後は現場で組み上げながら決定。最終的なかたちは「水が平らになるみたいにすーっとその地点にたどり着く」といいます。


    展覧会が終わると、解体されて搬出。作品は、溶断・搬入・組立・解体・搬出というサイクルで進む事となります。大きな流れの中で生まれ、そして消えていくさまは、生命の連鎖を思わせます。


    空気が通り抜けるような鉄の作品に対し、左手には巨大な白い塊が。石膏でできた《曇天1》《曇天2》で、表面には傷跡のようなテクスチャがつけられています。


    青木さんが石膏の作品を手掛けるようになったのは、2012年の個展から。鉄とは異なる新たな表現として、「原形質」シリーズが発表されました。


    山から触手が伸びるような「原形質」シリーズに続く《曇天1》と《曇天2》は、同じ石膏ですが、かたちはとてもシンプル。長崎県美術館で生まれた作品です。原爆が投下された長崎。曇天のため目標が変わった事と、山により被災を免れた人がいる事もあり、長崎への想いがかたちになりました。


    展覧会の公式図録「流れのなかに ひかりのかたまり」は、青木さんの1981年からの活動を記録写真で振り返る作品集です。アトリエでの制作風景や展示設営のドキュメントなど、これからアートの世界を目指す若い方にもおすすめです。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年1月7日 ]


    流れのなかに ひかりのかたまり流れのなかに ひかりのかたまり

    青木 野枝(著)

    左右社
    ¥ 2,200

    会場
    会期
    2019年12月14日(土)~2020年3月1日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~17:00(入場は16:30まで)
    休館日
    月曜日(1月13日、2月24日をのぞく)、12月29日~1月3日、1月14日、2月12日、25日
    住所
    東京都府中市浅間町1-3
    電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/index.html
    料金
    一般700 (560)円 / 高校生・大学生 350(280)円 / 小・中学生 150(120)円

    ※()内は20名以上の団体
    ※未就学児および障がい者手帳等をお待ちの方は無料
    ※府中市内の小学生は「府中っ子学びのパスポート」で無料
    ※常設展もご覧いただけます。
    展覧会詳細 「青木野枝 霧と鉄と山と」 詳細情報
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