耳鳥斎とは何者か?
時は江戸半ば、場所は商人の町・大坂。京町堀で商いをする傍ら、絵や浄瑠璃を嗜んだマルチタレント耳鳥斎は、とりわけ戯画の世界で異才を放った生粋の浪華っ子です。
京都や江戸にくわべ、大坂はアカデミズムとは一線を画す土地柄ですが、商人の町ならではの自由な気風は、狩野派などの職業絵師とはひと味違う多彩な画家を輩出しています。与謝蕪村しかり、岡田米山人しかり。
耳鳥斎もまた、大坂的趣味を戯画で表現した、いわば「笑いの奇才」です。芝居絵から風俗画、あるいは版元に至るまで、作品は速筆でありながら当意即妙というべき的確さと「おかしみ」とを合わせ持ち、「世界ハ是レ即チ一ツノ大戯場」と堅苦しい世間を喝破しています。一般には知られざる画家というイメージが先行している耳鳥斎ですが、宮武外骨や岡本一平ら、後世に与えた多大な影響は看過できません。
本展は、代表作≪別世界巻≫・≪地獄絵図≫や≪仮名手本忠臣蔵≫などの肉筆画約30点に、『絵本水や空』『画話耳鳥斎』といった版元約10点を加え、その画業の全貌に迫るものです。また与謝蕪村や上田公長らによる人物戯画、さらには漫画の元祖ともいえる鳥羽絵本を交え、大坂の戯画の系譜を浮き彫りにすることも試みます。滑稽な世相。世俗を鋭く切り取り、風雅の域にまで昇華させた作品の数々は、いわば笑いの街・大坂の原点ともいうべきものでしょう。展覧会会期中には、耳鳥斎の時代背景を探るべく上方芸能の専門家である澤井浩一氏をお招きし、近世大坂の風俗をテーマに講演会を開催。その後、引き続き耳鳥斎について、本展監修者である中谷伸生氏との対談も企画しています。