三井記念美術館の夏の恒例企画「美術の遊びとこころ」シリーズ第7弾の本展。旧金剛宗家伝来で北三井家旧蔵(重文)の能面などを紹介する企画です。
細かくは200以上に分類される能面、大きくは翁(おきな)面・尉(じょう)面・鬼神(きしん)面・男面・女面の5種に分けられます。一見すると似たように見える面でも、微妙な差によって、その意味が異なる面もあります。
会場に入ると、なんと能面が空中に。独立ケース内のアクリル台に能面を配する事で、まるで展示室に能面が浮かんでいるかのような趣きです。
能面の展示としては画期的なこの手法。ディスプレイとてしての完成度だけでなく、通常は能楽師しか見る事ができない能面の裏側を見られるというメリットもあります。
宙に浮いているかのような能面本展には、付けて舞うと顔から離れなくなり、無理に外したために顔の肉が剥がれて面に付いてしまったという「肉付き面」伝説を持つ面《不動》も展示。今回の展示なら、裏側に回って見る事も可能です。
早速、肉が付いた痕跡を確認しようとすると…目と鼻のあたりに生々しい痕跡が!
と思いきや、この跡は木から出たらヤニの可能性が高いとのこと。通常は面裏に漆を塗って仕上げる事が多いのに対し、この面は素地のままだったため、「肉付き面」伝説に繋がったのかもしれません。
「肉付き面」伝説の痕跡が明らかにメインビジュアルになっている女面は《孫次郎(オモカゲ)》。古くから名高い面で、見る角度によって微妙に表情が変わります。
本展では展示室2の独立ケースで紹介されていますので、かなり近くで鑑賞する事が可能。ぜひ上から下から、ご確認ください。
重要文化財《孫次郎(オモカゲ)》伝孫次郎作展示室5は、様々な能面を見くらべる構成です。
例えば、並んだふたつの尉面(じょうめん=老翁の面)。一見すると似たように見えますが、あごひげを植毛して口ひげは描かれ、上の歯だけ見える《小尉(小牛尉)》は、高い位の老翁。全てのひげが植毛され、上下とも歯が見える《三光尉》は、庶民階級の老翁です。
尉面を見比べると…展示室4では三井家伝来の能装束を紹介。本展では「文様(もんよう)」に焦点を当てました。
八角形と四角形が連続する蜀江文(しょっこうもん)は、『翁』に登場する翁役専用の特別な装束。
《紅白萌黄段亀甲石畳雲板蝶火焔雲笹模様厚板唐織》には蝶の模様があります。蝶は不死不滅のシンボルとして、武士に好まれた文様。蝶の能衣装は、武士を主人公とする演目で多く用いられました。
《刺繍七賢人模様厚板唐織》はとても豪華。中国の七賢人や動物が、衣装を埋め尽くすようにすべて刺繍で描かれています。
能装束展示室7では特別展示として『三越伊勢丹所蔵 歌舞伎衣裳「名優たちの名舞台」』も開催中。人気歌舞伎役者が実際に着用した「由緒衣裳(ゆいしょいしょう)」13点が展示されています。あわせてお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年7月23日 ] | | 能面の世界
西野 春雄 (監修), 見市 泰男(解説) 平凡社 ¥ 1,944 |
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