昨年の朝ドラ(NHK朝の連続テレビ小説)「なつぞら」では、神田日勝をモチーフにした山田天陽が登場。吉沢亮さんの熱演もあり、亡くなった時にはSNS上で「天陽ロス」が巻き起こりました。
今回の展覧会は「プロローグ」「壁と人」「牛馬を見つめる」「画室/室内風景」「アンフォルメルの試み」「十勝の風景」「エピローグ ― 半身の馬」という構成。ほぼ年代順で、歩みを振り返ります。
実際の神田日勝は、1937(昭和12)年、東京生まれ。一家は戦災者の集団帰農計画である「拓北農兵隊」として北海道に渡りますが、入植地の鹿追(しかおい)に着いたのは終戦の前日。荒れ果てた土地で、日勝の一家は厳しい生活を強いられます。
兄の一明が東京藝術大学に進学した事もあって、絵画に親しんでいた日勝。中学卒業後は、農業を続けながら絵を描きます。北海道内の展覧会で作品を発表し、徐々に評価を高めていきます。
日勝の油彩は、ベニヤ板にペインティング・ナイフを用いるスタイル。素材の質感と手応えが気に入ったためでしょうか。
その画風は、15年に満たない短い期間でしたが、何度もスタイルを変化させています。画業の初期は、労働者などをモチーフに暗いモノトーンで描写。後に、牛や農耕馬などの質感表現に拘り、色彩や形へ関心が移っていきました。
1964年には、独立展に初入選。その後も順調に入選を重ね、画家として飛躍していきます。この時代の作品は、豊かな色彩で荒々しい筆致。フォービスムなど同時代美術からも影響を受けており、いわゆる「農民画家」というイメージとは異なります。
展覧会では日勝に強い影響を与えた同時代の作家として、曺良奎、海老原喜之助、北川民次、海老原暎らの作品もあわせて紹介されています。
日勝は1970年に32歳の若さで死去。画室に残っていた描きかけの絵が《馬(絶筆・未完)》です。頭部などは完成しているものの、残りの部分はベニヤ板がそのまま露出。馬の虚ろな目は、強く印象に残ります。未完ではありますが、日勝を代表する名作です。
新型コロナウイルスの影響で、4月18日に予定されていた開幕が延期されていた本展。1カ月半遅れで、6月2日(火)からついにスタートとなりました。
チケットは日時指定による予約制、ローソンチケット(Lコード30066)で販売されます。美術館の受付ではチケット販売は原則行わないのと、ローソンは美術館のすぐ近くにはないので、ご注意ください。
東京展の後に神田日勝記念美術館(7/11~9/6)、北海道立近代美術館(9/19~11/8)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年4月17日 ]