美人画、風景画、武者絵、役者絵、戯画などさまざまなジャンルが描かれてきた浮世絵。実際には目に見えない妖怪や幽霊も、浮世絵師たちは想像力たっぷりに描いてきました。
歌川国芳や月岡芳年など名だたる浮世絵師が描いた、妖怪や幽霊の浮世絵、174点を紹介する展覧会「浮世絵お化け屋敷」が、太田記念美術館で開催中です。
太田記念美術館「浮世絵お化け屋敷」会場風景
では早速、いくつかの作品をご紹介しましょう。歌川貞秀の《源頼光館土蜘蛛妖怪図》は、源頼光の屋敷を、土蜘蛛が率いる妖怪たちが襲う場面です。
各所にお化けがいますが、囲碁の対局を見守る妖怪や、庭で相撲を取る妖怪など、楽しそうな姿も見えます。
歌川貞秀《源頼光館土蜘蛛妖怪図》天保(1830〜44)頃 個人蔵
「奥州安達原」は歌舞伎などの演目で知られますが、会場にはこれを題材にした師弟の作品が並びます。
月岡芳年の《奥州安達がはらひとつ家の図》は、天井から逆さ吊りにされた妊婦・恋衣を殺害すべく、老婆が包丁を研ぐ場面。
歌川国芳の《風流人形の内 一ツ家の図 祐天上人》は、深川八幡宮で催された生人形の見世物を題材にしています。
(左から)月岡芳年《奥州安達がはらひとつ家の図》明治18年(1885)9月 / 歌川国芳《風流人形の内 一ツ家の図 祐天上人》安政3年(1856)3月
豊原国周の《形見草四谷怪談》は、歌舞伎で戸板をひっくり返すと裏側から不気味な顔のお岩が現れる演出を、浮世絵にも取り入れた作品です。
なお、こちらは新収蔵品。本展では出品作品の約2割、38点が新収蔵の作品です。
豊原国周《形見草四谷怪談》明治17年(1884)10月
月岡芳年の《郵便 報知新聞 第六百五十一号》に描かれているのは、幽霊になった父親の姿です。
明治2年(1869)に、大坂の倉谷家に強盗が入り、幼い元吉は恐怖のため言葉が発せられなくなってしまいました。
その後、父親の利兵衛が亡くなりますが、利兵衛が命を賭して神仏に祈ったことから、その晩から元吉は話せるようになりました。
月岡芳年《郵便 報知新聞 第六百五十一号》明治8年(1875)
源頼光に仕える四天王の一人である渡辺綱は、一条戻橋で茨木童子という鬼に襲われますが、腕を切り落として撃退します。
《新形三十六怪撰 老婆鬼腕を持去る図》は、茨木童子にその腕を取り返されてしまう場面。こちらも新収蔵品です。
月岡芳年《新形三十六怪撰 老婆鬼腕を持去る図》明治22年(1889)4月
最後にご紹介するのは、謎の黒い怪物。
女中が夜中に厠にいくと、真っ黒な何者かに襲われて、結っていた髪を切られたという事件にもとづいた作品ですが、どこか着ぐるみのキャラクターのようです。
歌川芳藤《髪切の奇談》明治元年(1868)閏4月
いかにも夏にふさわしい展覧会。前期は8月3日(土)~9月1日(日)、後期は9月6日(金)~9月29日(日)で、前後期で全点が展示替えとなります。
お馴染みの歌川国芳《相馬の古内裏》は、後期に登場します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年8月2日 ]