《旅の絵本Ⅹ オランダ編 アムステルダム中央駅》 2022年 🄫空想工房
あべのハルカス美術館で、「安野光雅展」が11/12まで開催中です。
もともと2020年に開催予定だったこの展覧会は、コロナ禍のもと、中止を余儀なくされましたが、改めて開催する運びとなりました。
安野光雅といえば、小さな頃、絵本で親しみ、大人になってもファンである方が多いですが、今回は、初期の絵本デビュー作から晩年の作品までの原画140点余りを堪能できます。
6つの観点、6章仕立てで、やさしく美しく、ユーモアと不思議にあふれた安野光雅ワールドの全貌に迫ります。
デビュー作『ふしぎなえ』の不可思議な世界
42歳の時に出版した『ふしぎなえ』は絵本作家としてのデビュー作です。実際にはありえない構造の図形と文章がない絵本は、日本のみならず、世界中から注目を集めました。文章がないゆえに伝わる不思議さ、インパクトだと言えます。
《ふしぎなえ》 1968年 🄫空想工房
『ふしぎなえ』に続く『さかさま』『ふしぎな さーかす』は、初期三部作と呼ばれます。いずれも独特の世界観に裏打ちされた、安野光雅だけのめくるめく世界で、多くの人が魅了されています。
会場風景
数学や科学の中にある美しさ、ふしぎさ
摩訶不思議な絵本をたくさん描いている一方で、『はじめてであうすうがくの本』など 数学や科学の本も多く描いています。
数学の中にひそむ美しさを取り出して描いてくれました。今回、展覧会では、雑誌『数理科学』の表紙で描いた6点が出品されています。
《空想工房の絵本(混線)》 2014年 🄫空想工房
子供のころから『さかさま』の世界に惹かれていた安野光雅は、人類にとって最大の『さかさま』である天動説から地動説への転回をテーマにした『天動説 -てんがうごいていたころのはなし』を出版します。
今を生きる私たちにとって、地動説はごく当たり前のことですが、安野光雅にとってはそれを体験した当時の人たちの驚きと哀しみが他人事とは思えなかったのかもしれません。
紙を茶色く染め、シワを施した上に描かれた絵と仰々しいまでの縁模様は、古い時代のお話ということを演出するための安野さんのたくらみです。見た人の驚く顔を想像してニンマリしていそうです。
《天動説の絵本ー てんがうごいていたころのはなしー》 1979年 🄫空想工房
旅の風景にしのばせた空想ワールド
全10冊の「旅の絵本」は、中部ヨーロッパにはじまり、イタリア、イギリス、アメリカ…から、没後、アトリエで原画が見つかり、2022年に出版された「旅の絵本Ⅹ オランダ編」まで続きます。
第3章では、「デンマーク編」が展示されています。繊細なタッチで描かれた風景の中に、アンデルセンの出身地に因み、アンデルセン童話の登場人物たちがあちこちに顔をのぞかせています。
風景の美しさに加えて、そんなお楽しみもあるのが安野ワールドたるゆえんです。
《旅の絵本Ⅵ デンマーク編(リーベ)》 2004年 🄫空想工房
展示されている原画の間を歩いていると、デンマークの街に迷い込んだ気分になるのは私だけではないでしょう。
会場風景
掉尾を飾る2点に注目!
展覧会場最後には、2020年の作家の没後、アトリエで原画が見つかり2022年に「旅の絵本Ⅹ オランダ編」として出版された中から2点が特別に展示されています。
故郷・津和野町以外で展示されるのは、今回が初めてということですので。じっくりあじわいたいです。
《旅の絵本Ⅹ オランダ編 エンクハイゼン》 2022年 🄫空想工房
『ふしぎなえ』『旅の絵本』『繪本三國志』など初期から晩年の作品までを網羅した安野光雅の決定版と言える展覧会です。
掲載作品は、すべて津和野町立安野光雅美術館蔵
[ 取材・撮影・文:atsuko.s / 2023年9月15日 ]
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