人生100年時代、あなたならどう生きますか?
この問いにとても多くのヒントをくれる女性がいました。
“グランマ・モーゼス”ことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)です。 1940年80歳にしてニューヨークの画廊で初めての個展を開き、アメリカで大成功を収めたアーティストです。
グランマ・モーゼスはこんな方です
今回日本では16年ぶりの回顧展が「あべのハルカス美術館」で始まりました。
美術館エントランス
展覧会はグランマ・モーゼスの人物像紹介からスタート。1860年農家に生まれ、働き、 27歳で結婚。70歳を過ぎて孫への贈り物のために刺繍絵を始めるがリウマチで制作が難しくなり絵を描き始めました。丁寧に一針づつ縫われた刺繍絵やセピア色の家族写真がグランマ・モーゼスの人柄を語っています。
人生観を表す言葉と共に
村のドラッグストアに飾ってあった絵が美術コレクター ルイス・カルドアの目にとまり彼女の人生が急展開!アメリカ各地で評判となり、時には「TIME」や「LIFE」の表紙を飾り、なんとニューヨーク州知事は100歳を祝し9月7日をグランマ・モーゼスの日に制定しました。
『TIME』1953年12月28日号
1960年度「人生は40歳から始まる賞」賞状と表紙を飾った『LIFE』1960年9月19日号
彼女の101年の人生は、実はとても狭い地域(ニューヨーク州とヴァーモント州)の中で繰り返されました。だからよく似た山や川や人々が登場する作品が続きます。目の前に見える景色が同じだからです。でもその日の色合いは自然と共に変化し、毎日、毎年同じではありません。
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《窓ごしに見たフージック谷》 1946年個人蔵 (ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, GrandmaMoses PropertiesCo., NY
農村の風景は“仕事と幸せと”から成っていて、村人たちやニワトリや牛や馬が大勢登場します。きっとみんなグランマ・モーゼスの友達です。
かかせない村の行事・結婚式・お祝いや季節の仕事は全て共同作業です。キルト作り、ロウソク作 り、石鹸作りをはじめ、樹液からメープルシロップと砂糖をつくる“シュガリング・オフ”や夏の終わりの“アップルバター作り”が作品の重要な題材です。
ハロウィンやクリスマスはもう言うまでもありません。天候や自然とうまくつきあいながら過ごす時間が本当に幸せそうに絵として切り取られています。
アンナ・メアリー・ロバートソン・
“グランマ”・モーゼス 《村の結婚式》 1951年 ベニントン美術館蔵
© 2021, Grandma
Moses Properties
Co., NY
アンナ・メアリー・ロバートソン・
“グランマ”・モーゼス 《キルティング・ビー》 1950年
個人蔵
(ギャラリー・セント・エティエンヌ、
ニューヨーク寄託)
© 2021, Grandma
Moses Properties
Co., NY
絵画手法としては上手とは言えないかもしれません。専門的絵画の勉強をすることがなかったのです。人々の顔はとても簡単な表現ですが笑っています。幸せなんです!筆遣いや色彩は少し独特に感じます。はっきりした色使いのところと、隣り合う色を絶妙に一筆ごとに変えているものがあります。
これは得意とした刺繍絵の影響でしょうか。一針一針刺繍糸で埋めていくようなタッチです。これは色づく葉や風に揺れる樹々、そして冬の枯れ木にさえ躍動感を感じさせてくれます。
1961年6月絶筆となった作品は《虹》です。前面ではなく人や大きな木、そして村の向こうにかかる虹です。幸せが一瞬の時を包んでくれているようです。
《虹》1961年個人蔵
グランマ・モーゼスからのメッセージ
展覧会は4つのテーマで構成されています。刺繍絵から初期の絵画、そして101歳で亡くなるまで描かれた作品ならびに愛用品やゆかりの品々が約130点にも及び、当時のアメリカ農村生活を伝える貴重な史料でもあります。
最初の画集と自伝
ホールマーク社 クリスマス・オーナメント
子ども服などにも絵がプリント
クラウン・ポタリーズ社のディナーウェアより
農村田園で暮らすのは今、憧れる生活かもしれません。時間に追われることなく、淡々と繰り返される季節自然の移ろいにその一部として人々が溶け込み織り成すことが“生活”なのでしょう。自然がこんなに美しく変化することに気づいているでしょうか?
100年近い人生をいかに幸せに過ごすか・・地に足をつけ、自然と友達になれば教えてくれるかもしれません。最後に私が一番好きになった作品をご紹介します。
《来年までさようなら》1960年 100歳での作品です。雪原をトナカイのソリがサンタを乗せて走ります。静寂な月夜に丸くない雪が降っています。いつもの大きな木もしなやかに手を振るようです。また来年も幸せを運んでくるよ!という元気を感じます。
友達に配りたくなるグッズが並ぶ
「あべのハルカス美術館」は地上300mのノッポビルの16階にあります。シャトルエレベーター利用が便利です。大阪の街並みを眼下に見下ろし、美しい夜景も広がります。今回の展覧会は予約制ではありません。また、名古屋、静岡、東京、東広島への巡回が予定されています。
音声ガイドは俳優・吉岡秀隆さんの声。優しく語り掛ける声とピアニスト・辻井伸行さんが弾くフォスター作曲の「金髪のジェニー」がグランマ・モーゼスの作品とのハーモニーを奏でます。会場出口のミュージアムショップは充実のグッズが並びます。手元に置けば幸せな時間を分けてもらえそうな気がしました。
記念にどうぞ
平日のみ開館。6月20日(日)までの土日については緊急事態宣言に伴う要請を受け休館。
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年4月16日 ]
エリアレポーター募集中!
あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?
→ 詳しくはこちらまで