《トラフグ図版》 東京帝国大学紀要医学1巻よりBeitraege zur Kenntniss des Fugugiftes. Dr. D. Takahashi und Dr. Y. Inoko. Taf XI Fig.1 明治25(1892)年 石版画に彩色
「フグ毒の知識への貢献」と題された論文に添付されたカラー図版。上図(Fig.1)がトラフグ(下図はゴマフグ)。著者の猪子吉人(いのこ きちんど、1866-1893)は東京帝国大学医科大学助教授。東京帝国大学医科大学の初代薬物学教授であった高橋順太郎(1856-1920)のもとでフグ毒の研究を進めた。
トラフグは漢字で書けば「虎河豚」となり、まさに虎なのだが、実は名前の由来がはっきりしていない。他の動植物で「トラ」とつくものは明確な縞模様、特に黄色と黒の模様であることが多く、はたしてトラフグの模様が名前の由来かどうかは不明である。
担当者からのコメント
日本では貝塚からもフグの骨が見つかるほど古くから食用とされてきたが、卵巣などに猛毒のテトロドトキシンを持つ魚でもある。医学部紀要の第一号にその毒性の研究が掲載されていることからも、フグを食用にすることの特殊性、そして中毒の原因を解明することの重要性が伺えよう。
石版画に手彩色の非常に手のかかったこの図版からは、この時代の出版物がいかに贅沢な作りであったが伝わってくる。また写真ではわかりにくいが彩色の上からアラビアゴムの上塗りが施されており、魚体表面のヌメリを表現しようとしたものと思われる。