2021年1月に閉館となる原美術館での最後の展覧会「光 ー 呼吸 時をすくう5人」展がはじまりました。
本展では、新型コロナウイルス感染症で先行きが不透明な中でも、見る人の心に語りかけ様な5名の作家を紹介。
今井智己、城戸保、佐藤時啓による写真を中心とする作品。佐藤雅晴のアニメーションとリー・キットのインスタレーションが出品されています。
原美術館 外観
最初の展示室・ギャラリーIの作品は、香港出身のアーティスト、リー・キットのインスタレーションです。
制作する土地や展示空間の声を聞きながら、日用品と絵画・映像を組み合わせた作品を生み出しているリー。詩的な作品には、社会や政治への問題意識も内包されてます。
本展では、人工光と展示室に差し込む自然光を取り入れた《Flowers》を展示しています。
リー・キット《Flowers》 2018年
ギャラリーIIには、城戸保の写真作品が並びます。
絵を描く感覚で偶然性を利用した写真撮影してる城戸。そのため、“風景画”というシリーズの作品や、画家がパレット上で行う様に写真に自分の好みの色付けをしています。
城戸保の作品
撮影場所は、愛知、三重、岐阜など。晴れた日に車で対象を探し、何気ない日常から自分が感じた場面を切り取っています。
作品の中には、原美術館内で撮影したものが2点隠されているとの事。切り取られている場面を探す楽しみもありそうです。
城戸保の作品
同じくギャラリーIIに展示しているのが、2019年に逝去した佐藤雅晴の作品。
日常の風景をビデオで撮影した後、パソコンのペンツールを使いトレースしたアニメーション作品に取り組む佐藤。
本展では、5年前に五輪へと向かう東京の姿を撮影しトレースした《東京尾行》を展示。実写とアニメから生み出された微かな差異が、見る者に新たな視覚体験を生み出す作品になっています。
佐藤雅晴「東京尾行」2015-2016年 部分
エントランスホール、ギャラリーII、2階には、佐藤時啓による展覧会と同名の《光―呼吸》シリーズが展示されています。
80年代、鉄をつかったインスタレーションを制作していた佐藤。しかし、それらは写真でしか記録に残らないと感じ、そのフラストレーションから写真作品をはじめました。
「空間を線で埋める」をキーワードに12月~3月頃、原美術館で撮影された本作。
ペンライトを使って、空間に光を発光。曲線の多い原美の空間をなぞる作業を行いました。この挑戦は、自分の身体性の表現でもあったと語る佐藤。長いものでは3時間もの作業を集中を切らさずに行ったそうです。
佐藤時啓「光―呼吸」シリーズ 2020年
庭で撮られた作品は、室内と異なり木目などの目安がないため、3度のやり直しも。室内の垂直な線と異なる、くるくるとユニットを描いた作品になっています。
ほかにも、日中に撮影されたハラ ミュージアム アークや、ドローンをつかった映像から3D空間を作り、“旅をしている”かの様な映像も展示されています。
佐藤時啓「光―呼吸 Harabi#1」 2020年
今井智己の作品は、2階の展示室に。
福島第一原発から30km圏内の数カ所の山頂から、原発建屋の方向にカメラを向けた《Semicircle Law》。2011年4月21日に撮影された右下のものから、いくつも山を変え、季節を変えて9年間撮り続けています。
本展では、原美術館の屋上で原発方向に撮影された新作もギャラリーVに展示。
2室の展示とも、鑑賞者が写真を見る位置と原発の方角を合わせています。9年という月日と風景の流れが感じられます。
今井智己「Semicircle Law」シリーズ 2012年ー
今井智己「Semicircle Law」シリーズ 2012年ー
これまで約40年間、現代アートを中心に展覧会を開催してきた原美術館。建物の老朽化により本展を最後として閉館。群馬県渋川市のハラ ミュージアム アーク(2021年に原美術館ARCと改称)に拠点を移します。
本展は、日時指定の予約制を導入。また、今回は庭も含め撮影は不可。鑑賞者それぞれの記憶に留まる、貴重な展覧会となりそうです。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2020年9月18日 ]