仏教の儀式で用いられる仏具。伽藍の装飾から僧の日常生活に使う道具まで幅広く、そのかたちには美的な特質を見出すことができます。
仏具の造形を通じて、真理を見極めようとする探求心や、善美を尽くす布施の心など、仏道を実践してきた人々の心に思いをはせる展覧会が、根津美術館で開催中です。
根津美術館「仏具の世界 信仰と美のかたち」会場入口
展覧会は第1章「仏を荘厳する」から。仏像や仏堂などの整った様相から、仏の偉大さや徳の高さを感じ、菩提心(悟りを願う心=仏を信じる心)を起こすことは、仏教信仰の基礎ともいえます。
仏舎利は釈尊の遺骨のことです。舎利塔はこれを納める容器で、工芸技術の粋が尽くされています。今回の展示では、舎利を外に出して紹介されています。
《舎利塔》江戸時代 17~18世紀
第2章は「仏を供養する」。仏・法・僧や恩人・故人などに、香・華・灯明・飲食物を捧げる「供養」。仏の供養は大きな功徳をもたらすため、供養具の制作には最高位の技術が注がれました。
《彩絵華籠》は、散華を盛るための器です。素材は、やきものではなく紙で、木型に10枚ほどの紙を貼り、形を整えた後、型から外して全面に黒漆を塗って仕上げる「一閑張」(いっかんばり)でつくられています。
《彩絵華籠》鎌倉時代 14世紀
第3章は「仏道を修める」。自らの行いを正し、悟りへの到達を目指すのが「修行」です。初期仏教では3種類の衣と飲食用の鉢のみ所有が許されていましたが、東アジアの国々に広まると、気候や習俗にあわせて、僧具の種類は除々に増えていきました。
《布薩形水瓶》は、僧侶が月に2回、一堂に集まり、戒律を確認し自省を行う法会(布薩会)で、手を清めるための浄水をいれる水瓶です。
《布薩形水瓶》鎌倉時代 13世紀
第4章は「仏性を呼び覚ます」。儀式が重んじられる密教において、密教法具と呼ばれる道具は特に重要です。
灑水器と塗香器も、密教法具のひとつです。前者は浄水を盛る器、後者は抹香を盛る器で、両器とも蓋と台皿を備えます。
《灑水器・塗香器》江戸時代 17~18世紀
コラムとして設けられているのが「茶の湯と仏具」。仏教寺院は外来文化の窓口でもあり、喫茶の習慣も寺から広まっていきました。そのため、茶の湯の道具には、仏具にルーツを持つものも多く見られます。
銅鑼は主に禅宗寺院で時間を知らせる合図として打ち鳴らされるものですが、転じて茶事の際、濃茶の準備が整った合図としても用いられます。
《銅鑼》東南アジア 17~18世紀
最後の第5章は「仏教美術と女性の信仰」。亡き人を弔ったり、自身の往生を願う供養や布施は、男性だけでなく女性も行います。ここでは女性が願主の仏具を紹介します。
こちらは、大阪・観心寺の観音菩薩立像のものと伝わる光背。亡き夫を供養するもので、「恒(つね)に浄士に生まれ」と記されており、阿弥陀の名と浄土思想を明記した現存最古の仏像関係資料として、極めて貴重です。
《光背》飛鳥時代 斉明天皇4年(658)
今回もうひとつの注目が、展示室5で同時開催中のテーマ展「西田コレクション受贈記念Ⅰ IMARI」。根津美術館の顧問で、同館の学芸部長・副館長・理事も務めた西田宏子さんが蒐集した工芸品を紹介します。
西田さんは日本から輸出された磁器を研究するために欧州に留学。1975年に博士号を取得した時には「名門オックスフォードで初めて博士になった日本人女性」として報じられたこともあります。
根津美術館に寄贈された西田コレクションは、計169件。今回の「IMARI」に続き「唐物」「阿蘭陀・安南 etc.」と、3期に分けて公開されます。
「西田コレクション受贈記念Ⅰ IMARI」会場
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年2月17日 ]