今年もこの季節がやってきました。毎年、梅が咲くこの時期あわせて公開されている国宝《紅白梅図屏風》。尾形光琳を代表する作品のひとつで、装飾性が高く、琳派の極みともいえる存在です。
あわせて《色絵藤花文茶壺》《翰墨城》と、MOA美術館が有する国宝3点すべてを同時に公開。豪華な展覧会が同館で開催中です。
MOA美術館 天気が良い日は絶景が楽しめます
展覧会はジャンル別の構成、「中国の美術」から始まります。中国からわが国に舶載された絵画や工芸品は、古くは「唐物」とよばれていました。
《樹下美人図》は8世紀盛唐期の風俗を反映した作品。唐代の紙本絵画は極めて稀少です。
(右端)重要文化財《樹下美人図》中国 唐時代 8世紀
中国的な主題の「唐絵」に対し、日本の風景や風俗を描いたのが「やまと絵」です。平安時代前期に成立しました。
《平兼盛像 佐竹本三十六歌仙切》は、佐竹家に伝えられた三十六歌仙絵巻の一部。大正時代に歌仙一人ごとに切り分けられました。この作品は、上巻最後に描かれていました。
重要文化財《平兼盛像 佐竹本三十六歌仙切》鎌倉時代 13世紀
お目当ての国宝《紅白梅図屏風》は、次の展示室の奥に鎮座しています。これはMOA美術館全体にいえる事ですが、館内は展示ケースへの映り込みが無いよう綿密に計算されているため、ガラス面を感じる事なく、作品に対峙することができます。
左隻の白梅は樹幹の大部分を画面外に隠し、対して右隻の紅梅は画面いっぱいに表現。中央に水流をおいて、末広がりの曲面がつくられています。
梅花は花弁を線書きしない「光琳梅」、樹幹にはたらし込みと、光琳画業の集大成といって良い作品です。
国宝《紅白梅図屏風》尾形光琳 江戸時代
国宝《色絵藤花文茶壺》は、野々村仁清の作。瀬戸で修業を積み、洛西の仁和寺門前に御室窯を開きました。「仁清」という号は、仁和寺の仁と、本名の清右衛門から命名されました。
仁清の作品は、巧みなろくろの技術と華麗な上絵付けが特徴です。《色絵藤花文茶壺》は、温かみのある白釉地の上に、咲き盛る藤花を巧みな構図で描写。花穂と蔓は赤や紫・金・銀などで彩られ、緑の葉には葉脈も施されています。
仁清の茶壺の中でも最高の傑作とされ、京風文化の象徴的作品でもあります。
国宝《色絵藤花文茶壺》野々村仁清 江戸時代
もうひとつの国宝は《手鑑 翰墨城》。「藻塩草」(京都国立博物館蔵)と「見ぬ世の友」(出光美術館蔵)とともに、古筆三大手鑑のひとつとされています。
「翰墨城」は翰(筆)と墨によって築かれた城、という意味。奈良時代から南北朝・室町時代の各時代にわたる古筆が、表側154葉、裏側157葉の合計311葉収められています。
国宝《手鑑 翰墨城》奈良時代~室町時代
江戸時代中期に、木版画の技術の発展により隆盛した浮世絵。一方で絵師が直接描いた浮世絵は「肉筆浮世絵」と呼ばれています。
重要文化財《雪月花図》は、雪月花の三福対に、王朝の三才媛、清少納言・紫式部・小野小町を、市井の婦女に見立てて描いたものです。
重要文化財《雪月花図》勝川春章 江戸時代 18世紀
明治以降、西洋化の波が押し寄せると、美術においても、それまでとは異なった動きが各方面で見られるようになります。
佐藤玄々(清蔵)は、山崎朝雲に学んだ後、高村光雲に師事。フランスではブルーデルにも師事しました。この《猫》は、帰国後の代表的な作品です。
《猫》佐藤玄々(清蔵) 昭和19年(1944)
まさにこの時期だけの特別な展示。MOA美術館に来たことが無い方は、まずはこの時期の訪問をおすすめいたします。作品はもちろん、その展示環境にきっと驚くと思います。
一般の方も、作品の撮影が可能です(所蔵作品のみ。一脚、三脚、自撮り棒など、フラッシュは不可)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年1月28日 ]