1837年、18歳で即位したヴィクトリア女王。64年間にわたる長い治世はさまざまな文化に影響を与え、ジュエリーの分野も大きな変革が起こりました。
19世紀に芸術品として花開いたアンティーク・ジュエリーの世界を中心に、華麗な英国の伝統と文化、栄華のさまを紹介する展覧会が、八王子市立夢美術館で開催中です。
八王子市夢美術館「愛のヴィクトリアンジュエリー」会場入口
会場はプロローグでヴィクトリア女王が紹介されています。この時代の英国は、産業革命で大きく発展。富裕層の増加は宝飾品需要に繋がり、ジュエリー文化は大きく発展しました。
第1章は「アンティーク・ジュエリー」。アンティーク・ジュエリーは100年以上前に作られたジュエリーのことです。本展では、英国の18世紀から19世紀に焦点を当て、王室にまつわる宝飾品をはじめとするコレクション、約200点を紹介します。
(左)E.X.ヴィンターハルター工房《若き日のヴィクトリア女王》1842年頃
同一の素材とデザインで作られた揃いのジュエリー(ティアラか髪飾り、ネックレス、ブレスレット、プローチ、イヤリング)をパリュールと呼びます。アイテムが完全でないものをスウィート、2種類のみのものはセットです。
アイテムそのものも豪華ですが、特にオリジナルの箱が残っているものは貴重とされています。
《シトリン&カラーゴールドパリュール》1830年頃 イギリス
こちらは展覧会のメインビジュアルで使われているジュエリーです。
中央のブローチは、ネックレスの下にペンダントとして下げることができます。
《エメラルド&ダイヤモンドゴールドセット》1830年頃 イギリス
ダイヤモンドが宝石の中心的な存在になったのは、18世紀にベルギーでブリリアントカットが開発されてからです。美しい輝きは、ヨーロッパ中で大流行しました。
《ダイヤモンドスプレーブローチ》は、花束を結んだデザインです。ヴィクトリア女王が植物を好んだことから、植物モチーフのジュエリーは盛んにつくられました。
《ダイヤモンドスプレーブローチ》19世紀中期 フランス
ヴィクトリアン・ジュエリーの特徴として、素材や技法の豊かさがあげられます。
この時代、ボヘミアンガーネットやベルリンの鉄、動物の角など、さまざまな素材がジュエリーになりました。
《ベルリンアイアンワークペンダント》19世紀初期 ドイツ
アンティークではありませんが、展示されているなかには興味深いジュエリーもあります。ひときわ目立つリングは、ダイアナ元妃の24歳の誕生日に、宝石商のルイ・ジェラールから贈られたものです。
壁面にはチャールズ皇太子とダイアナ元妃の仲睦まじい写真もあります。悲劇的な結末は、この12年後の出来事です。
《ダイアナ元妃のダイヤモンドリング》1985年 フランス
展覧会ではジュエリー以外も紹介されており、第2章は「歓びのウェディングから哀しみのモーニング」です。
ヴィクトリア女王は1840年にアルバート公と結婚。ベールにはイングランド地方で作られたホニトンレースが用いられ、結婚式でレースのベールを着用することが習慣になりました。
結婚指輪を交換する儀式も、アルバート公がドイツから持ち込み、一般に広まりました。
《オレンジブラッサム・ヘアオーナメント》19世紀後期 イギリス / 《ウェディングベール(ロング)》19世紀後期 イギリス / 《ウェディングベール(スクウェア)》19世紀後期 イギリス / 《ウェディングショール》19世紀後期 イギリス / 《ウェディングドレス》1840年頃 イギリス
喪中に故人を偲んで身につけるのが、モーニングジュエリーです。1649年のチャールズ1世の死から、遺髪入りのジュエリーが広まりました。
古代から魔除けとして身につけられてきたジェットも、1817年のシャーロット妃の葬儀以来、宮廷で身につけられるようになりました。
《モーニングケープ》1870年頃 イギリス / 《モーニングドレス》1870年頃 イギリス
第3章は「優雅なひととき アフタヌーンティー」。1662年にチャールズ2世に嫁いだポルトガルの皇女キャサリンによって、英国の宮廷に喫茶の習慣が広まりました。
ヴィクトリア時代には紅茶文化が完成。19世紀半ばには、午後に紅茶を飲み軽食を取るアフタヌーンティーが、社交的な文化として発展しました。
アフタヌーンティーのテーブルセッティング
会場最後はレースが展示されています。レースはヴェネツィアとフランドルというふたつの地域で、1520年代に始まりました。
当時のレースは宝石よりも高額で、富と権力の象徴であり、王侯貴族、特に男性の服飾に使われました。18世紀後半になると、ロマン主義的な風潮のなかで、女性たちに広まっていきました。
(左から)《18世紀のブリュッセルとデヴォンシャーのボビンレース》 / 《ブリュッセルニードルポイントレース》
展覧会は、穐葉(あきば)アンティークジュウリー美術館が所蔵するコレクションを紹介する企画展。同館は建物は閉鎖しているので、そのコレクションを見られるのは館外での企画展のみになります。
東京での公開は久しぶりです。この機をお見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月12日 ]