「日本陶磁史を通覧する」という本展。いつもの出光美術館の雰囲気とはやや異なり、土器が並ぶ第1章「朱と渦の世界 ―縄文土器から埴輪まで」から始まります。
渦を巻く文様が印象的な縄文土器と、簡素な機能美の弥生土器。‘美術’という言葉が無い時代でも、美への確かな欲求がありました。
第2章は「輝きの色、中世のかたち ─古墳時代から室町時代」。5世紀になると、朝鮮半島から須恵器(すえき)の技術が伝来します。窯を用いる事で、高温で焼かれた硬いうつわが生まれました。
7世紀末には、やきものをガラス状の膜で覆う釉薬(うわぐすり)が登場します。実用性と意匠の両面で、大きな技術革新と言えます。
第3章は「憧れの色・文様・かたち ―海を越えて来たやきもの」。四方を海に囲まれた日本では、遅くとも8世紀後半には東アジア圏域との交易が始まっていました。唐三彩などの中国のやきものは、人々を魅了。日本におけるやきものの歴史は、中国や朝鮮半島抜きに語る事はできません。
第4章は「茶の湯のかたち ―鎌倉時代から桃山時代」。中国商人や禅宗の僧侶たちにより伝来した喫茶文化は、やきもの文化を大きく発展させます。
整った造形の「唐物」(中国・朝鮮産のやきもの)と、侘び茶にあう洒脱な「和物」(国産のやきもの)。独特の美意識を反映したうつわが、茶の湯の席を彩りました。
最も大きなスペースで紹介されているのが、第5章「みやびと洗練の文様 ―華やぎの江戸時代」です。ここでは、唐津・初期伊万里、古九谷、古伊万里・柿右衛門・鍋島、京焼と、ジャンル別に展示されています。
中央で目を引く大きな壺は、《色絵花鳥文八角共蓋壺》と《色絵鳳凰文共蓋壺》。どちらも江戸時代前期のものですが、前者は柿右衛門で磁器、後者は野々村仁清による京焼で陶器。ともに重要文化財です。
やきものの歴史としては、土器→炻器→陶器→磁器の順ですが、日本においては陶器は磁器より遅れたものではなく、並び立っている事は特徴的です。
その白さを強調するように、余白を大きく取った柿右衛門に対し、全面に絵柄を施した京焼。素材特性の違いとともに、西洋の王侯貴族に愛された柿右衛門に対し、京焼は国内の富裕層向けと、需要者の好みが表現に反映されています。
第6章は「近代の色・文様・かたち ―明治と個人作家の誕生」。明治になるとやきものは大きく変化。芸術作品としてのやきものは、板谷波山や富本憲吉など、優れた作家を生みました。
この時代のやきものは、外貨獲得の手段でもありました。《白磁松竹梅文遊環付方瓶》は、ほとんど展覧会には出た事がない作品。兵庫の盈進舎(えいしんしゃ)による制作で、両面で梅と松竹が表現されています。白磁を極めた出石焼は明治前半、欧米で高く評価されました。
「入門」と銘うっているだけあり、館内には素朴な話題のコラムや、マンガ入りのパネルなど、初心者にも分かりやすい構成です。
最後に、会場で紹介されていたトリビア的なお話を。やきものは、日本では一般に前述の四種(土器・炻器・陶器・磁器)に分類されますが、中国語では考えが異なるため、炻器・陶器・磁器をまとめて「瓷器」と表記。では土器は?というと、正解は「陶器」です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年11月27日 ]
※12月23日(月)〜1月3日(金)は年末年始休館です