ヤマザキマザック美術館にて、「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」展が開催されています。期間は2024年2月25日まで。
本展は、彼が手掛けた約240点の作品を通して、グラフィックデザイナーの先駆者である、杉浦非水の魅力に迫る展覧会です。
ヤマザキマザック美術館 会場入口
杉浦非水を知っていますか。現在の多摩美術大学の初代校長としても知られ、明治後期から昭和初期にかけて「図案家」として活躍したデザイナーです。ポスター、雑誌、パッケージ、装丁など多岐にわたるデザインを手掛けました。
「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」 会場風景
東京美術学校(現東京藝術大学)で日本画を学んだ非水。師・黒田清輝がパリ万国博覧会から持ち帰ったアール・ヌーヴォーの資料に刺激を受け、「図案家」としての第一歩を踏み出します。留学での経験、西洋の様式など、様々に受けた影響を作風に落とし込みながら、デザイナーとしての地位を確立していきます。
有名企業からの信頼も厚く、「ヤマサ醤油」や「カルピス」をはじめ、数多くの広告デザインを担当しました。図形的でデフォルメされた要素から、モダンな印象を受けます。 ダイナミックで目を引く構図、懐かしさを感じさせるあたたかい色使いが、見る人の視線を惹きつけます。
《品質日本一 ヤマサ醤油》
数多くの企業の広告デザインを手掛けた中でも、深い関わりがあったのは、三越呉服店です。ポスターや、『みつこしタイムス』『三越』などの広報誌の表紙など、専属の図案化として、27年にわたってデザインを手掛けます。
「非水の三越か、三越の非水か」と囁かれるほど、そのブランドイメージに貢献しました。洗練されたデザインの中に、巧みに取り入れられた季節感が目を楽しませてくれます。
「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」 会場風景
中でも、印象に残ったのは、蝶々柄にオレンジ地の着物が鮮やかなこちらの作品です。 椅子に腰掛ける女性が身に着ける着物、背後の椅子やテーブルなど、ふんだんにアール・ヌーヴォー風の動植物の模様が散りばめられています。約100年前に作られたレトロ感漂う作品でありながら、現代においても古さを感じさせない魅力があります。
《三越呉服店 春の新柄陳列会 みつこしタイムス》
こちらは、三越銀座店の開店を宣伝するポスターです。入り口からは行列の人々で賑わう店内の様子が、店外には車の往来が見て取れます。手前には、最先端のファッションに身を包んだ、モダンガールな装いの女性と子供、和服を着た女性が立っています。和洋折衷な社会の様子が伝わってきます。当時の人々の羨望の的だったことでしょう。
《銀座三越 四月十日開店》
作品だけでなく、非水が活躍した時代と同時期のファッションや、家具も展示されており、非水の生きた時代を感じることができます。
アール・ヌーヴォー時代に流行したS字ラインのドレスです(画像左)。作品内のドレスと、展示されたドレスを比較して、当時のおしゃれを楽しむことができます。
《銀座三越 四月十日開店》
デザインの基礎として、写生を大切にしていた非水。そんな彼が自然界に咲く花を題材とし、原画担当した木版画集です。優れたデザインの根底には、写生で培われたデッサン力と観察力がありました。非水は、花は勿論、鳥も愛し、自宅ではモモイロインコを飼っていたそうです。繊細で柔らかい印象の作品からは、自然に目を向ける心の温かさが伝わってきます。
《非水百科譜》
この『非水百科譜』と絡めて、ヤマザキマザック美術館所蔵品である、エミール・ガレなどのアール・ヌーヴォー時代に作られた工芸品が併せて展示されています。
非水の描く精密で美しい花の姿を、花があしらわれたガラス作品と共に作品を堪能できるのは、ヤマザキマザック美術館ならでは。
会場風景
当時の時代を感じる資料とともに、多才な杉浦非水の世界に浸れる展示でした。 展覧会期間中に、前期・後期で作品が入れ替わるそうです。ぜひ、杉浦非水のレトロでモダン、そしておしゃれな世界を楽しんでみてください。
[ 取材・撮影・文:Kaho / 2023年11月8日 ]
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