「現代美術のポジション2020-2021」展が始まりました。 「ポジション」展は、名古屋とその近隣地域で活動する中堅から若手の作家をピックアップして紹介するもので、初回の1994年から不定期に開催されています。
美術館入口
本展では、絵画、彫刻、映像、インスタレーションの各分野から、川角岳大、木村充伯、鈴木孝幸、多田圭佑、寺脇扶美、水野勝規、水野里奈、本山ゆかり、横野明日香の9名が出品しています。
以前、ギャラリーのグループ展や個展で見かけた作家もいますが、その時よりもスケールの大きな作品が出品されていて、見ているとわくわくしてきます。
展覧会の見どころ
水野里奈は、大胆さと細密さが同居した、とてもカラフルな作品を描きます。
会場風景 水野里奈《青い宮殿》2019年 高橋コレクション蔵
本展のチラシに使われている作品は、横幅が5mを超える大作ですが、その画面には、よくわからないもの、花、ソファ、ガラス瓶、岩場などが、びっしりと描かれています。カラフルで、遠目からも目立ちますが、近寄ると、その細やかな筆遣いに驚かされます。見ても見ても、見切れない不思議な作品です。
横野明日香の作品には、花のように小さなものも、ダムや高速道路のように大きなものも、同じようなスケール感で描かれます。
会場風景 横野明日香《赤いポット》2021年(左)、《Flight》2017年(中)、《米塚》2018年(右)
どの作品も不思議な物語性を感じます。自分の背丈より大きな赤いポットの前では、まるで小人になったような気分です。彼女は、来年開催される国際芸術祭「あいち2022」にも出品するので、新作が楽しみです。
川角岳大は、犬に見えない犬の作品が印象的です。
会場風景 川角岳大《front dog》2019年(左)、《rear dog》2019年(右)
作品タイトルを見るまでは、漢字の「刀」みたいだな、と思っていました。以前、「清流の国ぎふ芸術祭」(岐阜県美術館)で見たときは、もっと立体的な作風だったので、本展のように平面だけの展示は新鮮です。
本山ゆかりの作品には、かなり戸惑いました。
会場風景 本山ゆかり《ghost in the cloth(二本の薔薇)》2021年(左)、《ghost in the cloth(ナイフ)》2021年(右)
一見すると、パッチワークのようで、現代美術の展示にしては、地味に思われます。しかし、作品タイトルの《Ghost in the cloth》を見て、思い当たることがありました。
油彩の技法を英語では「oil on canvas」と表記します。作品の本体は、キャンバス上(on canvas)の絵の具の部分ですが、彼女は、本体を布で覆い隠し(in the cloth)、わずかな凹凸で、幽霊(Ghost)のように存在をほのめかしています。絵画でも彫刻でもない、新しいタイプの作品の出現を主張しているようです。彼女は、「VOCA展2022」にも出品するので、次の展開が楽しみです。
ご紹介した作品以外にも、楽しい作品が盛りだくさんです。お気に入りを見つけに、出かけてみてはいかがでしょうか。なお、会場内は、全作品撮影可能です。(ただし、地下の常設展示室は除く)
会場風景 木村充伯《Wonderful Man》2015年
会場風景 多田圭佑《trace/dimension #3(reconstructed version)》2020/2021年
会場風景 鈴木孝幸《heaping earth-506 日本の地図》2018-2019年(中央上)、《heaping earth-627 中国の地図》2021年(中央下)
会場風景 寺脇扶美《red + white》2021年(中央)
会場風景 水野勝規《fallwater》2007年(右)
最後の展示室には、「アーティストの日常」と題して、作家が趣味で収集したもの、よく手にするもの、撮りためた写真、描き続けたドローイングなどが並びます。 作品のイメージとよく似たものもあれば、持ち主の見当がつかないものもあります。 普段の展覧会では、なかなかお目にかかれない、とてもレアな企画だと思います。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2021年12月11日 ]
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