東山魁夷は、明治41(1908)年に生まれ、東京藝術大学研究科を修了したのち、ドイツ留学をはさんで帝展、新文展に作品を発表しました。戦後になって、≪残照≫をはじめとする清冽な印象を与える作品から、≪道≫などに見られる平面的で単純化をきわめて画面へと作風を展開させ、風景画家としての独自の表現を確立しました。そして、ヨーロッパと日本の街や自然を、「生」の営みをいとおしむかのように描いた作品、祈りの風景ともいえるほどに、沈潜した精神的な深みをうかがわせる唐招提寺御影堂の障壁画などによって、戦後の日本画界に大きな足跡を残しました。
東山魁夷の作品は平明でわかりやすい描写のうちに、清新な抒情性と深い精神性を湛えています。それは徹底した自然観照から生まれた心象風景であり、自身の心の奥底に潜む想いの表白にほかなりません。また同時に、その作品は日本の伝統につらなりつつ、時代に生きる感覚を確かに宿しています。東山芸術が今なお多くの人々の共感を得るのはまさにそれゆえであるといえるでしょう。
本展は、東山魁夷の画業70年を代表作約100点で辿るものです。唐招提寺御影堂の障壁画からは≪濤声≫(部分)、≪揚州薫風≫をご紹介します。本展で、東山魁夷の芸術の魅力をお楽しみください。