「枕草子」「方丈記」とともに日本三大随筆に数えられる「徒然草」。古典文学の中では最も親しまれている作品のひとつです。
近年、海北友雪(かいほうゆうせつ)による「徒然草絵巻」を収蔵した
サントリー美術館。本展では全二十巻を初公開するとともに、屏風や絵本なども紹介し、絵画化された徒然草の世界を展観します。
第1章「兼好と徒然草」は、兼好の紹介から。今では名高い兼好ですが、その実像には不明点が多く、さらに近年の研究では通説だった出自や官職についても見直されつつあります。
頬杖をついた兼好の肖像は、海北友雪による作品の模本。筆を持ち頬杖をついて思案する姿は、柿本人麻呂像から続く伝統的なスタイルです。
第1章「兼好と徒然草」第2章は「徒然草を描く」です。
徒然草が書かれたのは約700年前ですが、その場面が絵画化されるようになったのは100年以上経った江戸時代初期になってから。時の後水尾天皇が古典文化の復興に熱心だった事もあり、古典文学を絵画化した作品が数多く作られました。
幅広い読者を獲得した徒然草は、源氏物語の「源氏絵」、伊勢物語の「伊勢絵」のように、「徒然絵」といえるほど多くの作例があります。会場には狩野派、土佐派、住吉派など、各流派による「徒然絵」が並びます。
第2章「徒然草を描く」本展の目玉である海北友雪《徒然草絵巻》は、第3章「徒然草を読む」で紹介されています。
注釈書が普及した事により、章段が区切られ、場面ごとに鑑賞できるようになった徒然草。「徒然絵」も人気のある章段や絵画化しやすい場面が描かれるのが一般的ですが、この絵巻は徒然草のほぼ全段が絵画化されている、極めて貴重な作例です。
冒頭は第1展示室で、続きは吹き抜け部の第2展示室に、そして会場最後に第20巻。全20巻を一挙に公開するのは初めての試みです。もちろん各所に現代文の解説もあるため、徒然草を通して鑑賞するまたとない機会です。ここは時間を取ってお楽しみください。
第3章「徒然草を読む」最後の第4章「海北友雪の画業と『徒然草絵巻』」では、絵巻を描いた海北友雪を紹介します。
海北友雪は海北友松(ゆうしょう)の子ですが、18歳で父が死去。活動の初期は苦難を強いられますが、後年は徳川家光の御用絵師に上りつめます。友松から受けた恩に報いるため、春日局が友雪を推挙したのです。
巨大な扇面形が描かれた特徴的な屏風は《一の谷合戦図屏風》。熊谷次郎直実と平敦盛が対峙する有名な場面をドラマチックに描いています。
第4章「海北友雪の画業と『徒然草絵巻』」実は現在、
神奈川県立金沢文庫でも
「徒然草と兼好法師」が開催中(6月22日まで)。全くの偶然ながら、首都圏で同時期に徒然草の企画展が開催される事となりました。
本展は会期が短めで、僅かに36日間。夏休み前には終わってしまいます。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年6月10日 ]