2024年は絵本画家・いわさきちひろの没後50年です。この1年間ちひろ美術館(東京・安曇野)では、「あそび」「自然」「平和」の3つのテーマで、現代の科学の視点も交えてちひろの絵を読み解く展覧会「あれ これ いのち」「あ・そ・ぼ」「みんな なかまよ」が、それぞれ会期をわけて開催されます。

緑豊かなちひろ美術館・東京の外観
現在開催されている「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ あ・そ・ぼ」展は、その名の通りあそびをテーマにした展覧会です。展覧会のディレクターは近森基+小原藍(plaplax)。覗いたり、触れたり、くぐったり、子どもも大人も見るだけで参加したくなる、今までにないちひろの展覧会です。さっそくわが家の3人の子どもたちと一緒に、会場に向かいました。

展示室入口
展示室に入るとまず目に飛び込んでくるのは、作品から飛び出してきたような帽子やてるてる坊主などのインスタレーション。まるでいわさきちひろの世界に入り込んだかのようです。なかには実際に手に取れるモノもあり、絵の世界と私たちの世界が重なるような楽しい仕掛けが随所に見られました。

会場風景
今回の展覧会では、展示室ごとに《絵を見るための遊具》が点在しているのも見どころの一つです。上下に2つ覗き穴があるボックスには「おとなのしてん」「こどものしてん」と書かれています。子どもたちは不思議そうな顔で中を覗き込んでいました。おとなとこどもがどのように違うかは、見てのお楽しみです。そのほかにも、絵の一部が拡大されて見える遊具もありました。

plapax 《絵を見るための遊具》 2024年
続いての見どころは、plaplaxが絵本『あめのひのおるすばん』(至光社)に着想を得て制作したという作品《まどのらくがき》です。作品の前に立つと雨音が響き、窓枠をイメージしたスクリーンには、曇った窓ガラス越しの場面が映し出されていました。幼い頃、雨の日の窓に指で絵を描いた経験は誰もがあるのではないでしょうか。スクリーンの上で指を動かすときゅきゅっという音がして、あの感覚を体験することができます。もちろん子どもたちは夢中になって、しばらく手を動かしていました。

Plapax 《まどのらくがき》 2024年
2018年に「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶ」でplaplaxが制作した《絵の具の足あと》も再展示されています。これはちひろの水彩技法のひとつでもある絵の具のにじみに着目した作品で、歩いた軌跡に絵の具のにじみが現れます。3人で作品の上をくるくる回っては、いろいろな色と形をつくって楽しんでいました。

Plapax 《絵の具の足あと》 2018年
最後の展示室にも別の《絵を見るための道具》がありました。ここでは「いろんなきもちでのぞいてみよう」ということで、レンズごとで気持ちが変わる仕掛けです。どんな気持ちになれたかな?

plapax 《絵を見るための遊具》 2024年
そのほかの見どころとして、常設されている「ちひろのアトリエ」があります。テーブルにはティーカップが出ていたり、部屋の奥にはピアノがあったり、ちひろの創作の合間の時間も想像できる空間です。子どもたちも芸術家のアトリエに興味津々。いろんな発見をして楽しそうでした。

ちひろのアトリエ
以上、美術館に入ってから出るまで、ちひろに「あ・そ・ぼ」と呼びかけられているような気持ちになりました。子どもはもちろん、ついあそび心を忘れてしまいがちな大人まで、何歳でも楽しみながら鑑賞できる展覧会です。館内には緑と美しい花に囲まれた「ちひろの庭」や「絵本カフェ」もあります。是非ご家族で豊かな時間を過ごしてください。

夢中になってあそぶ子どもたち
[ 取材・撮影・文:かとうあつし / 2024年6月22日 ]