2000年を超える歴史を持ち、“永遠の都”と称されるローマ。その栄光を象徴するカピトリーノの丘に位置する「カピトリーノ美術館」の作品を通して、ローマの歴史と美術を紹介する展覧会が、東京都美術館ではじまりました。
東京都美術館
ローマの建国は、ギリシアのトロイアを脱出しイタリアに上陸したアイネイアスの子孫たちの歴史として語られています。エピソードの代表格といえるのが、軍神と巫女の間に生まれた双子ロムルスとレムスを育てる牝狼の物語で、「カピトリーノの牝狼」はローマのシンボルともいえる作品です。
会場には、乳を飲む双子の彫像が付け加えられた《カピトリーノの牝狼》の複製が展示されています。
《カピトリーノの牝狼(複製)》20世紀(原作は前5世紀) ローマ市庁舎蔵
古代ローマ帝国では、ユリウス・カエサルの遺志を継いだオクタウィアヌスによって都市の整備や大造営事業が進められました。帝国の繁栄とともに、威厳ある表情と写実性のある、歴代ローマ皇帝の肖像が生まれました。
第2章「古代ローマ帝国の栄光」会場
コンスタンティヌス帝は、政治や経済、官僚組織を変革。キリスト教信仰を公認したことで知られている人物でもあり、カピトリーノ美術館には巨像2体の断片が残されています。
迫力ある《コンスタンティヌス帝の巨像》は、一部を原寸大に複製したもので頭部だけで高さ約1.8メートルものスケールに及びます。巨像の左足、左手、さらにルーヴル美術館で近年発見された人差し指の複製があわせて展示されています。
(左から)《コンスタンティヌス帝の 巨像の左足(複製)》2021年(原作は312年頃) ローマ文明博物館蔵 / 《コンスタンティヌス帝の 巨像の頭部(複製)》1930年代(原作は330-37年) ローマ文明博物館蔵
会場2階に上がると現れるのが、奇跡の初来日となった《カピトリーノのヴィーナス》です。
ミロのヴィーナス(ルーヴル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィッツィ美術館)に並ぶ古代ヴィーナス像の傑作として知られ、カピトリーノ美術館以外では滅多に見ることができない門外不出の作品です。
《カピトリーノのヴィーナス》2世紀 カピトリーノ美術館蔵
1471年、教皇シクストゥス4世は教皇宮殿前に置かれていた《カピトリーノの牝狼》や《コンスタンティヌス帝の巨像》を含む古代彫刻4点を、ローマ市民に返還するという名目で寄贈し、カピトリーノの丘の中庭に設置。これが現在のカピトリーノ美術館コレクションの前身となります。
16世紀にカピトリーノの丘の頂に広場を建設するプロジェクトを手がけたのは、巨匠・ミケランジェロです。第3章では、広場と建築群からなる美術館の起源から、ミケランジェロの都市計画までの展開を追うことができます。
(左から)エティエンヌ・デュペラック《カンピドリオ広場の眺め》1569年 ローマ美術館蔵 / ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《カンピドリオとサンタ・マリア・イン・アラチェリ聖堂の眺め(『ローマの景観』より)》1745-78年 ローマ美術館蔵
1734年、教皇クレメンス12世により膨大なコレクションが一般公開されます。その後、教皇ベネディクトゥス14世の尽力によりイタリア名家による絵画のコレクションが収集され、1750年に絵画館が設立。
ベネディクトゥス14世は素描教室を開設し、男性ヌードモデルを無料でデッサンできる場の提供も行います。こうした美術館とアカデミーの結合は、ヨーロッパの芸術家にも影響を与え、カピトリーノを生きた教育の場へと昇華させることとなります。
(左から)ピエトロ・ダ・コルトーナ《教皇ウルバヌス8世の肖像》1624-27年頃 / 《聖母子と天使たち》1625–30年 ともにカピトリーノ美術館 絵画館蔵
グランドツアーなどが流行した17世紀以降になると、ヨーロッパ各地の芸術家たちはローマに集まるようになります。また、18世紀前半にはポンペイなどの古代遺跡が発掘され、古代への関心がいっそう高まりました。
中でも芸術家の想像力を刺激したのは、トラヤヌス帝がダキア戦争での勝利を記念し建設した、30メートルもの記念柱です。会場では「トラヤヌス帝記念柱」をモティーフとする版画や模型で紹介しています。
(左から)《モエシアの艦隊(トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)》 / 《デケバルスの自殺 (トラヤヌス帝記念柱からの石膏複製)》 ともに1861-62年(原作は113年) ローマ文明博物館蔵
カピトリーノ美術館は、日本とゆかりの深い美術館でもあります。150年前の1873年、明治政府が欧米に派遣した岩倉使節団はカピトリーノ美術館を訪れ、欧米の本格的な美術・博物館を視察。その経験は、日本の博物館政策や美術教育にも影響を与えました。最後の展示室では、カピトリーノ美術館と日本の交流を、版画やパネル、石膏像を通じて紹介します。
特集展示「カピトリーノ美術館と日本」
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[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2023年9月15日 ]