静嘉堂文庫美術館が丸の内に移転!「静嘉堂@丸の内」の新たな愛称とともに、ついにオープンを果たしました。
静嘉堂文庫美術館 展示ギャラリー(ホワイエ)
三菱第二代社長の岩﨑彌之助が創設し、息子で第四代社長の岩﨑小彌太が拡充した公益財団法人静嘉堂。1992年から東京都世田谷区の美術館で運営していました。
新美術館は、丸の内の明治生命館1階に入居。建物は昭和期の建物として初めて重要文化財に指定された名建築で、会議で何度もマッカーサーが訪れている事でも知られています。
静嘉堂文庫美術館が入る、重要文化財《明治生命館》
美術館は当初の建築部分を生かしてつくられ、室内全体が大理石造りです。高い天井からはガラス越しに自然光が差し込み、4つの展示室が中央部のホワイエをとり囲むように設けられました。
ミュージアムショップは、美術館に入る手前に設けられました。丸の内への移転を機に、新しいグッズも多数登場しています。イチオシは「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」(5,800円)。これなら気軽に手に触れることもできます。
ミュージアムショップ
「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」(5,800円) 在庫が少ないですが、予約も受け付けています。
開館記念の展覧会は、静嘉堂文庫美術館が所蔵する7件の国宝すべてを前・後期に分けて公開するという豪華な企画展です。
展覧会の第1章は「静嘉堂コレクションの嚆矢 ― 岩﨑彌之助の名宝蒐集」。大名物の唐物茄子茶入《付藻茄子》と《松本(紹鷗)茄子》は、大坂夏の陣で大破しますが、塗師の名工、藤重藤元・藤巌父子が修復しました。紹介されているCTスキャン画像で、漆継ぎの様子がはっきりと分かります。
三菱の前身の社名「九十九商会」と同じ「付藻(九十九)」の名をもつ茶入と巡り合えた彌之助は、兄・彌太郎に借金をして手に入れたとされています。
大名物《唐物茄子茶入 付藻茄子》南宋~元時代 13~14世紀[全期間展示]
第2章は「中国文化の粋」。静嘉堂において中国美術の占める割合は大きく、コレクションの根幹といえます。岩﨑彌之助・小彌太の父子は東洋の美術をこよなく愛し、昔から評価の高い、正統的な作品群を好んで蒐集しました。
国宝《風雨山水図》は、南宋時代を代表する画院画家・馬遠筆の伝承を持つ作品です。聳え立つ山々と、傘を握り急ぐ男。ドラマチックな構図は北宋の山水画にも通じます。
前期(10/1〜11/6)は宋〜元、後期(11/0〜12/18)は明〜清時代の書画・工芸品を展示します。
伝 馬遠 国宝《風雨山水図》南宋時代 13世紀[展示期間:10/1~11/6]
最も広い展示室であるGallery3は、第3章「金銀かがやく琳派の美」。光悦、宗達、光琳、乾山、抱一、其一、抱二と、華やかな琳派の流れが楽しめます。
国宝《源氏物語関屋澪標図屏風》は、「源氏物語」のうち14帖「澪標」、16帖「関屋」を主題とした、俵屋宗達の大作。明治28年(1896)頃、京都・醍醐寺より岩﨑家の所有になりました。宗達の最晩年の作品ですが、色褪せない画力が良く分かります。
俵屋宗達 国宝《源氏物語関屋澪標図屛風》江戸時代 寛永8年(1631)[展示期間:10/1~11/6]
第4章は「国宝「曜変天目」を伝えゆく ― 岩﨑小彌太の審美眼」。お目当ての国宝《曜変天目(稲葉天目)》は、新たな展示ケースと照明でのお披露目となりました。
神秘的な輝きが見られる曜変天目で現存するのは、世界でわずか3碗。中国で焼かれたものですが、3碗はいずれも日本にあり、すべてが国宝です。
世田谷では、冬には富士山とともに鑑賞できるのも見ものでしたが、新しい美術館では、よりドラマチックな印象。曜変の輝きも、さらに際立つように感じられます。
建窯 国宝《曜変天目(稲葉天目)》南宋時代 12~13世紀[全期間展示]
美術館が移転した丸の内は、かつて岩﨑彌之助がミュージアムを造りたいと願った場所。彌之助は明治25年(1892)に丸の内に美術品を公開する美術館構想を語っており、当時は実現に至りませんでしたが、ついに130年後に実現した事となります。
本展は開館記念展の第一弾。この後は「初春を祝う―七福うさぎがやってくる!」(1/2〜2/4)、「お雛さま―岩﨑小彌太邸へようこそ」(2/18〜3/26)と、可愛らしい展示が期待できそうな企画が続きます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年9月30日 ]