明治の開国で洋風文化が流入した日本。衣服は徐々に洋装へと切り替わり、戦後には洋服が定着。1970年代以降は、日本の装いの文化は世界からも注目を集めるようになりました。
日本ファッションの黎明期から最先端の動向までを、社会的背景とともに紐解いていく展覧会が、国立新美術館で開催中です。
国立新美術館「ファッション イン ジャパン 1945-2020 —流行と社会」会場入り口
展覧会では、衣服やアイデアを創造するデザイナー(発信者)サイドだけでなく、衣服を着用し、時に時代のムーヴメントを生み出すこともあった消費者(受容者)サイドからも俯瞰するのが特徴的。会場はプロローグからスタートします。
明治期に、近代化政策の一環として取り入れられた洋装。1920年代から30年代には「モダンガール」も登場し、雑誌や新聞で耳目を集めましたが、庶民の和装は長く続きました。
戦時中には国民服が制定。女性用として婦人標準服も発表されましたが、実際に普及したのはもんぺです。
プロローグ「1920年代-1945年 和装から洋装へ」
1945年に日本は敗戦。生活必需品が不足するなか、女性たちは洋服を仕立てる技術を身に付けようと、洋装学校へ殺到します。ブームは全国に広がり、本格的な洋服の普及に繋がりました。
高度経済成長期に入ると、若者たちの文化が躍進します。映画をきっかけに「真知子巻き」や「太陽族」ファッションが生まれ、若者が流行が牽引していきました。
1章「1945-1950年代 戦後、洋裁ブームの到来」
1960年代には中産階級が拡大していきます。1964年の東京オリンピックでカラーテレビが普及すると、映画に代わってテレビが大きな影響力を持つようになりました。
ロンドン発の若者文化は日本にも波及し、ミニスカートや濃いアイメイクが流行。男性の間にもアイビーが流行します。
60年代後半には学生運動も盛んに。社会が騒然とする中、ヒッピーたちの服装も注目を集めました。
2章「1960年代 『作る』から『買う』時代へ」
1970年には大阪万博が開幕。会場を彩ったさまざまなユニフォームの制作に、多くのデザイナーが参画しました。
若者による反体制運動はカウンターカルチャーを生み、民主主義の象徴としてTシャツやジーンズが流行。原宿は若者の街へと変貌し、小さなアパレル会社が出現し始めます。
一方で三宅一生、高田賢三、山本寛斎らは海外のコレクションに参加。西洋の伝統とは異なる革新的な装いで、華々しい活躍を見せました。
3章「1970年代 個性豊かな日本人デザイナーの躍進」
続く80年代は、日本の経済成長が頂点を極めた時期。「感性の時代」と称され、消費を煽る広告文化が花開き、アニメやゲームなどのサブカルチャーも盛んになりました。
ファッションの分野では、デザイナーの個性を強く打ち出した「DCブランド」が流行。アンチテーゼとして「無印良品」が生まれるなど、多様化が進んでいきました。
1985年には「東京コレクション」が開催。日本発のファッションは熱気を帯びていきます。
4章「1980年代 DCブランドの最盛期」
「ジュリアナ東京」の開店は1991年。ワンレン・ボディコンの女性たちは時代のアイコンになりましたが、すでにバブルは崩壊しており、「失われた10年」に突入していきます。
この時代は、街から流行が生まれるようになります。原宿の路地裏から「裏原系」、ミュージシャンが牽引した「渋谷系」など、街自体のイメージがスタイルになり、若者が都市を活気づけていきました。
90年代後半には、ストリートスナップ専門誌やコギャル向けなど、対象を細分化した雑誌が次々と創刊。おしゃれな読者モデルは、ファッションリーダーとして存在感を増していきます。
5章「1990年代 渋谷・原宿から発信された新たなファッション」
2000年代にはPCの普及も進み、不特定多数とのやりとりが可能に。「2ちゃんねる」「mixi」などが生まれ、ネットから独自のカルチャーが生まれるようになりました。
ファッション分野では、ヴィジュアル系バンドをルーツにしたゴスロリが原宿を中心に増加。一方で「JJ」「CanCam」などの雑誌は、男性からのモテを意識した女性像を打ち出し、これらは「Kawaii」カルチャーとして、世界でも受け入れられるようになります。
また、安価なファストファッションも台頭。人気のスタイルが誰でも手に入るようになった事は特筆されます。
6章「2000年代 世界に飛躍した『Kawaii』」
2011年3月11日に東日本大震災が発生。景気はさらに落ち込み、環境負荷と経済負担の少ない「サステナブル(持続可能)」な社会に関心が集まります。。
モノの所有よりコトに関心を持つ層が増え、丁寧に日常を重ねる「くらし系」のライフスタイルが注目されるように。シンプルかつユニセックスな「ノームコア」スタイルは、世界的に人気を集めました。
2011年にはLINEがリリース。SNSは幅広い世代に普及し、それぞれの共感から小さなムーブメントが生まれ、さまざまな動向が並在するようになっていきます。
7章「2010年代 『いいね』の時代へ」
最終章は、未来へ向けられたファッションについて。SNSの浸透で都心部と地方、日本と世界の距離は格段に縮まり、衣類の購入もウェブで簡単に行えるようになりました。
一方で、作り手たちはサステナブルを考慮せざるを得なくなり、環境への配慮は当たり前の事に。また、私たちの生活を大きく変えたCovid-19(新型コロナウイルス)の流行は、これからのファッションにも影響を与えていく事になるでしょう。
8章「未来へ向けられたファッション」
世界で戦った日本のファッションデザイナーの先達といえる山本寛斎さんと高田賢三さんが相次いで死去するなど、昨年は残念なニュースもありましたが、オリジナリティあふれる日本発のファッションは、今もなお世界中で注目を集め続けています。
文字通り、日本における洋装ファッションの歴史を通覧できる展覧会。華やかな会場は、ファッションに詳しくない方でもお楽しみいただけると思います。土日祝日の来館は、日時指定券の事前購入をお勧めします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年6月8日 ]