江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849)。役者絵・美人画・風景画・戯画と何でもこなし、その独創性は海外も魅了。現在でも世界で最も有名な日本の絵師といえます。
生誕260年を記念し、代表作である『北斎漫画』「冨嶽三十六景」『富嶽百景』の全頁・全点・全図が一堂に会する特別展が、東京ミッドタウン・ホールで開催中です。
東京ミッドタウン・ホール 生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」会場入口
会場に足を踏み入れると、驚きの空間。『北斎漫画』を紹介する最初の展示室は、壁から床面まで作品に包まれ、まさに「北斎づくし」です。建築家の田根剛とアートディレクター・ブックデザイナーの祖父江慎が展示空間を手掛けました。
『北斎漫画』は全15編の絵手本。江戸の風俗、職人の作業の様子を始め、動植物、風景、建築、人物、故事から妖怪まで、約3,600図が描かれています。
初編には序文もなく、「初編」の文字もない事から、当初はシリーズ化される意図はなかったものと思われます。最後の十五編が刊行されたのは、なんと明治11年。北斎が没して29年も経っていました。それほど『北斎漫画』の人気が高かったといえます。
『北斎漫画』の展示室
白基調の展示室から次の部屋に移ると、一転して赤い部屋。並ぶのは「冨嶽三十六景」。「三十六景」ですが、あとから10枚追加されたので計48枚。先行する36図は通称“表富士”で、輪郭線が青色、追加の10図は通称“裏富士”で、輪郭線が墨色で摺られています。
特に有名な「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」「山下白雨」は“三役”と呼ばれるこのシリーズ、北斎を代表する揃物です。
「冨嶽三十六景」の展示室
続いて「Digital Hokusai」、展示作品の高精細アーカイブデータを用いた、超没入シアターです。
和紙製の縦型スクリーンと、壁面そのものを使った大型スクリーンに、展示作品から飛び出した図像が登場。ユニークな動きで、北斎が描いた江戸の世界へ誘います。
「Digital Hokusai」コーナー
続く展示室には読本の挿絵。江戸時代後期には、伝説的な英雄や豪傑らを登場人物に、勧善懲悪の伝奇的な物語が進む長編の小説「読本」が、庶民の間に広まりました。
北斎は10年ほどの間に、190冊あまりの読本の挿絵を手掛けています。
北斎による、読本の挿絵
最後は『富嶽百景』。富士の神体である木花開耶姫命(このはなさくやひめ)に始まり、富士創成の物語や、花鳥、風俗、故事人物、名所など、富士にまつわるさまざまな事象を描いた絵本です。
薄墨を効果的に用いた絵もさることながら、特に有名なのは跋文(あとがき)。75歳の時に「110歳になったらもっと上手い絵師になる」と豪語しています。
『富嶽百景』の展示室
会場最後のミュージアムショップも充実。スタイリッシュなショップに、数々の展覧会オリジナルグッズが並びます。
注目は展覧会の公式図録。大きさは、なんと新聞サイズの546×406ミリ。展覧会に出展されている全作、全編、全頁が完全収録されています(3,000円)。
ミュージアムショップ
展示風景の写真でお分かりのように、最大の見ものは会場デザイン。画狂・北斎と現代のクリエイターがガチンコでぶつかりあう、迫力の構成です。
同じくミッドタウン内で開催中のサントリー美術館「ざわつく日本美術」展との相互割引も実施中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年7月21日 ]