17世紀初めに京都の町人文化として生まれ、江戸へ引き継がれた「琳派」と、19世紀後半のフランスで生まれた「印象派」。東西の美術を「都市文化」をキーワードにしながら紹介する展覧会が、アーティゾン美術館で開催中です。
「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」会場入口
会場に入り目に飛び込むのは、京の様子を描いた《洛中洛外図屛風》(前期展示:2020年11月14[土]~12月20日[日])。二条城がみえる左隻は、徳川和子が後水尾天皇の女卸として入内する、1620年の歴史的瞬間を切り取ったものです。右隻には、沢山の店が立ち並ぶ祇園の姿が描かれ、その活気溢れる都市の様子が感じられます。
《洛中洛外図屛風》 江戸時代 17世紀 石橋財団アーティゾン美術館蔵 (前期展示:2020年11月14[土]~12月20日[日])
俵屋宗達や本阿弥光悦が活躍した、17世紀はじめの京。武家の政治体制を整える江戸に対し、京は天皇や公家、町衆を担い手とする文化を発展させました。平安・鎌倉の王朝文化に憧れていた当時、光悦や宗達は古典をベースに時流にアレンジしました。
序章 都市の様子「京」
“琳派”は、そもそも師弟関係や血縁関係によって受け継がれた訳ではありません。俵屋宗達らを倣った尾形光琳、19世紀にその画風を慕いオマージュした酒井抱一。後の時代に受け継がれていった装飾的な様式を“琳派”と称します。
そんな“琳派”の作品には、いくつかのテーマに分けられます。題材として最も多く取り上げられたのは、桜草や紫陽花などの四季折々の草花を描いたものでした。他にも、伊勢物語を中心とする物語絵や、濃淡を駆使して彩を感じさせる墨の表現も用いられました。
第1章 the 琳派「墨の世界」
本展のタイトルにもなっている“琳派”と“印象派”は、時代や地域は異なりますが、共通点・相違点があります。第2章では、それぞれの作品を一緒に展示し、比較していきます。
形があるようでない「水」に興味を抱いた琳派の絵師たちは、幾重にも線を引き意匠的に水の流れを表しました。一方、印象派の画家たちは、光を浴びて変化する色彩をキャンバスに表現。モネは生涯を通して庭の池に浮かぶ睡蓮やその水面を描いています。
第2章 琳派×印象派「水の表現」
「間」にもそれぞれの表現があります。俵屋宗達の《風神雷神図屛風》(後期展示:2020年12月22日[火]~2021年1月24日[日])や《舞樂図屛風》(前期展示:2020年11月14日[土]~12月20日[日])では、モチーフの「間」を金地の背景で埋めています。一方のドガは、踊り子たちの配置で空間に奥行きを持たせました。
このほかにも、描く対象物やその注文主の違いを比較していくことができます。
第2章 琳派×印象派「間」
第二章 琳派×印象派「注文主」
第3章では“印象派”の作品を紹介。19世紀のフランスでは、貴族社会からブルジョワジーが中心となる市民社会へ移行していきます。「都市市民の肖像」のセクションでは、上流階級の男性の主流であったシルクハットをかぶった肖像画から、中流階級の男性が被ったソフト帽の自画像を展示。流行りの服装をした女性たちも並んでいます。
第3章 the 印象派「都市市民の肖像」
室内から屋外へ目を向け、風景を描き始めたことも“印象派”の大きな特徴です。カミーユ・ピサロやクロード・モネをはじめ、多くの画家たちがパリから郊外へと出向き、大胆な筆づかいで豊かな自然風景を制作しました。
第3章 the 印象派「郊外への憧憬」
“琳派”と“印象派”。時代の異なる東西の都市文化を贅沢に味わえる本展。前・後期で作品は一部展示替えがありますが、初公開となる尾形光琳の《孔雀立葵図屛風》や、12月22日から展示される国宝・俵屋宗達の《風神雷神図屛風》も見どころです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2020年11月13日 ]