研究者によるマニアックな視点からセレクトされた虫たちの世界を紹介する特別展「昆虫 MANIAC」が国立科学博物館ではじまりました。
特別展「昆虫」の開催は2018年以来、6年ぶりとなり、今回はマニアックな昆虫標本だけでなく最新の昆虫研究を織り交ぜた展示がされています。
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国立科学博物館 会場入口
展覧会の導入となるゾーン1「昆虫とムシ」では、「昆虫」また「ムシ」はどのような生き物なのか、ひとつずつ確かめていきます。 不完全変態、完全変態の昆虫など、ムシについての基本情報を振り返ったところで、ゾーン2「多様なムシ」のマニアックなムシたちの世界の扉へ踏み込んで行きましょう。
先ずは「トンボの扉」から。トンボは、世界中に約6,500種も知られ、日本にも約200種が分布しているといわれています。この扉では、トンボのほかにバッタやナナフシ、セミなど、幼虫から成虫へ成長する際にさなぎにならない不完全変態昆虫を紹介しています。
アメリカやカナダでは、17年周期と13年周期で発生する「素数ゼミ」と称されるセミがいます。今年は13と17の公倍数となる年、つまり221年に1回起こる、2つのグループが同時期に発生した年でもありました。会場では、イリノイ州 シカゴで取材班が聞いた、大量のセミが集まった爆音を体感することができます。
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「トンボの扉」
「ハチの扉」では、スズメバチやミツバチのほかに、ハチと似た体のつくりや生態をもつハエの仲間を紹介。
30万種を超えるハチとハエの多くは、ほかの生物と深い結びつきの中で暮らしています。シタバチは、様々な香を運ぶことでメスに選ばれやすくなるといわれています。中南米に咲くランの花は、その習性を利用して芳香臭でシタバチのオスを誘引し、花粉の媒体者として利用していることが分かっています。
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「ハチの扉」
ハチの生態と聞くと、働きバチと女王バチによる労働と産卵を分業した生活を送る「真社会性」の姿を想像しがちですが、これは全体からすると珍しい例です。食べ物を巣にため込んでから産卵する母バチや、産卵後も巣を訪れて幼虫に食べ物を運ぶ母バチ、ほかのハチがつくった巣に産卵する寄生性のあるハチなども存在します。
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「ハチの扉」
続いては「チョウの扉」。チョウやガは世界では16万種、日本だけでも6,500種以上が知られています。その特徴はハネやからだが鱗粉で覆われていること、口がストロー状の「口吻」になっていることが挙げられます。祖先は約3億年も前の石炭紀に生じたと推定され、その進化の道筋も辿りながら多様性を感じることができます。
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「チョウの扉」
昆虫以外のムシの意外な側面を紹介しているのは「クモの扉」。クモ類は現在、世界中で52,000種、日本でも1,700種が知られ昆虫同様に多様な特徴をもつ種として存在しています。
ここでは、東南アジアを中心に生息する日本最大のオオジョロウグモや、テントウムシに似た美しい黒色斑をもつツシマトリノフンダマシなどマニアックなクモを知ることができます。
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「クモの扉」
最後はカブトムシやクワガタムシなど甲虫のマニアックに迫る「カブトムシの扉」。甲虫は陸上・陸水中のあらゆる環境に適応した、地球上で最も成功した生物の一つで、世界中で35万種類以上が知られています。多くは森林や野山の木や草の上で生活する植物食や肉食ですが、池や沼、渓流や河川などにも生息しています。
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「カブトムシの扉」
会場では、吸着毛を多数もち壁面に接着するクロカタゾウムシや上野動物園のエゾジカの紛で飼育されているオオセンチコガネの姿も観察することができます。
また、体調2メートルもの巨大模型も必見です。ギンヤンマのヤゴ、エゾオナガバチ、ウスバキチョウ、オオナガトゲグモ、オオセンチコガネの5体の模型からは、研究者が細部までこだわって監修したことが分かります。
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クロカタゾウムシ
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特別展「昆虫 MANIAC」会場
展覧会公式サポーターに就任しているのはお笑いコンビ、アンガールズの2人。山根さんは昨年11月、広島のローカル番組「元就。」のロケで新種の昆虫「モトナリヒメコバネナガハネカクシ」発見。体長約6mmの黒褐色で細長い甲虫で、森林の落葉中に生息する通称「モトナリ」は、1階の最後のコーナーに展示されます。
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山根さんが発見した新種昆虫「モトナリヒメコバネナガハネカクシ」(通称「モトナリ」)
夏休みの自由研究にもぴったりなテーマとなっている特別展「昆虫 MANIAC」。多様なムシたちの世界に興味を抱くことで、新種の発見に繋がるかもしれません。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年7月12日 ]