皇室ゆかりの貴重な品々を保存・公開している皇居三の丸尚蔵館。今夏の展覧会は「生き物」がテーマです。
会場には愛らしい小動物や、一度見たら忘れられない魚の置き物など、バラエティ豊かな作品が並びます。
皇居三の丸尚蔵館「いきもの賞玩」会場入口
展覧会は3章構成で、最初は「詠む・描く」。昆虫や鳥を詠んだ書跡、動物が描かれている絵巻などが紹介されます。
最初にご紹介する《和歌色紙》は、いったいどこに動物が?と思われるかもしれません。よく見ると、表具(掛け軸の土台となる布)に、カササギとニワトリのような鳥が表されています。この華やかな表具は、後西天皇のお好みの仕立てと伝わります。
《和歌色紙》伝 飛鳥井雅経 鎌倉時代(12〜13世紀)皇居三の丸尚蔵館収蔵(前期展示)
続いて、本展最大の注目作品といえる、伊藤若冲の国宝《動植綵絵》。全30幅のうち前期展は《芦鵞図》、後期展では《池辺群虫図》が展示されます。
《芦鵞図》に描かれているのは、真白なガチョウ。荒々しい筆致で描かれた背景との対比もあって、ガチョウの毛並みが際立ち、生命の清らかさも感じられます。
国宝《動植綵絵 芦鵞図》伊藤若冲 江戸時代 宝暦11年(1761)皇居三の丸尚蔵館収蔵(前期展示)
続いて絵巻物。《小栗判官絵巻》は、江戸初期の人形浄瑠璃をもとにした絵巻で、小栗判官と照手姫が、数多くの困難を乗り越え結ばれるストーリーです。
妻の照手姫の一門に殺された小栗は、閻魔大王の計らいで地獄から蘇生。蘇った小栗一行の中には、多くの犬を連れた武士もいます。
《小栗判官絵巻 巻14下》(部分)岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀)皇居三の丸尚蔵館収蔵(前期展示)
大きな展示室に移って、次のエリアは「かたどる・あしらう」。冒頭でご紹介した「一度見たら忘れられない魚の置き物」は、川本栄次郎による《鯉置物》。巨大な陶製の置物です。
渦巻く滝つぼから跳び上がる躍動感あふれるコイは、立身出世を表す「登竜門」の姿を表しています。
《鯉置物》川本栄次郎 大正2年(1913)皇居三の丸尚蔵館収蔵
《竹籠に葡萄虫行列図花瓶》は明治時代の日本を代表する陶工で、帝室技芸員にも選ばれている初代宮川香山の作。
白磁の花瓶の外側には、竹を編んだ籠とブドウの蔦と葉。奥にはバッタやコオロギ、さらにその様子をうかがうアマガエルと、賑やかな意匠です。
《竹籠に葡萄虫行列図花瓶》初代 宮川香山 明治10年(1877)皇居三の丸尚蔵館収蔵
展示室の最奥にあるのは、巨大な刺繍額画《刺繍菊に鳩図額》。咲き誇る菊のなか、垣根にとまってるハトが中央に3羽、左に1羽。垣根の下にも、2羽のハトが何かをついばんでいるようです。
刺繍絵画は、絹の刺繍糸による盛り上がりが見どころ。別の角度から見ると糸の輝きが変わるので、印象が変化します。
《刺繍菊に鳩図額》四代飯田新七 明治44年(1911)皇居三の丸尚蔵館収蔵(前期展示)
最後のエリアは「いろいろな国から」。皇室はさまざまな国と交流を重ねる中で、世界各地から美術品が贈られています。ここでは「いきもの」が表現された、世界各国の美術品を紹介していきます。
《コリントス式アンフォリスコス》は、2500年以上前につくられた古代の壺。ギリシアの都市コリントスで製作された陶器で、鳥や動物などが彩色と刻線で描かれています。
《コリントス式アンフォリスコス》紀元前7〜紀元前6世紀頃 皇居三の丸尚蔵館収蔵
《トカゲ型カトラリーレスト》は、かつて西アフリカにあったダホメ共和国(現ベナン共和国)大統領から贈られたもの。
洋食器の箸置きになっているトカゲは、アフリカ地域で日常的に見られる生き物の一つです。
《トカゲ型カトラリーレスト》1963年頃 皇居三の丸尚蔵館収蔵
会期中、毎週金曜日と土曜日は20時まで夜間開館を実施(ただし7月26日と8月30日を除く)。皇室ゆかりの上質な美術品を舞台に、さまざまな生き物たちが織りなすバラエティ豊かな世界をゆっくりとご覧ください。展覧会は8月4日(日)までの前期と8月6日(火)からの後期で作品の一部が展示替えされます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年7月9日 ]