世界的ファッションデザイナー、イヴ・サンローラン(1936-2008)。没後初めて日本で開催される大規模な展覧会が、国立新美術館ではじまりました。
会場では、デビューから自身のブランドスタイルが確立するまでの40年にわたる歴史を12のチャプターに分けて紹介しています。
国立新美術館入口より
1953年、サンローランは17歳の時にパリに渡り、コンクールのドレス部門で入賞をしたことを機に、クリスチャン・ディオールのアシスタントに抜擢されます。
1957年にクリスチャン・ディオールが52歳で急逝したため、21歳の若さでディオールのチーフデザイナーを務めることとなったサンローラン。そのわずか1年後には、ディオールで最初のコレクション「トラペーズ・ライン」を発表し、ディオールの後継者となります。
Chapter 0「ある才能の誕生」
ディオールで6つのコレクションを手掛け、デザイナーとして成功を収めたサンローランは、1961年にピエール・ベルジェらと共にオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を設立します。1962年に発表された初めてのコレクションでは、船乗りの作業着に着想を得たピーコートなどを発表し、大きな注目を浴びます。
Chapter 1「1962年 初となるオートクチュールコレクション」
イヴ・サンローランの代名詞的存在となったのは、タキシードやジャンプスーツ、サファリ・ルック、トレンチコートなど。サンローランは、男性服から着想を得て、女性服をモダンにアレンジ。シンプルさとエレガンスを組み合わせた女性のシルエットを生み出しました。
Chapter 2の作品からは「女性を目先の流行から解放し、彼女たちにより大きな自信を与えるためにクラシックなワードローブの基礎を与えること」を夢見たサンローランの独自のスタイルが感じられます。
Chapter 2「イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品」
20世紀、ヨーロッパのアーティストは「異国趣味」に魅了されていました。別荘のあったモロッコに赴く以外は旅行を好まなかったサンローランですが、読書や美術作品の収集によって想像を巡らせ、ロシア、スペイン、アジアの国々をデザインで表します。鮮やかな色彩や独特な形による表現は、イヴ・サンローランの作品に不可欠なものとなっていきます
Chapter 4「想像上の旅」
ヨーロッパの様々な時代の装いにインスピレーションを受けたサンローラン。古代ギリシア・ローマ彫刻がまとっているようなドレスや、中世の装いを思わせるガウンなど。過去の服飾の歴史に敬意を払いながら、自由な創造性を発揮しデザインに取り込みました。
Chapter 5「服飾の歴史」
舞台美術にも魅了されたサンローランは、演劇やバレエ、ミュージックホール、映画などの衣装を数多く制作しています。Chapter 7では、色彩や素材を駆使した絵画的手法と、綿密で生き生きとしたコントラストの強い線から伝わる描画が色濃く表れているスケッチを展示しています。
Chapter 7「舞台芸術 ─グラフィックアート」
舞台への情熱から、演劇の衣装や舞台セットの仕事も行うようになります。1964年に初のプロジェクトとして「フィガロの結婚」のデザインを行ったことをきっかけに、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画『昼顔』やジャン・コクトーの演劇『双頭の鷲』、ローラン・プティが芸術監督を務めたミュージックホールなどの衣装も手掛けています。
Chapter 8「舞台芸術 ─テキスタイル」
多くのアーティストと交流し、親愛の念を示していたサンローラン。黒の水平線と垂直線で分割された白地のワンピースに三原色が配された「モンドリアン・ルック」をはじめ、美術作品とファッションを融合したデザインにも挑戦します。
ピカソやマティス、ブラック、ファン・ゴッホといった画家への尊敬から生まれた表現は、伝統的なオートクチュールの世界に新風を吹き込むファッションとなります。
Chapter 9「アーティストへのオマージュ」
オートクチュールのファッションショーの1番の見せ場となるのが、20世紀前半に導入されたウエディングドレスです。ここでも、サンローランは新しい女性像として斬新なデザインのを展開します。また、花嫁の後ろを歩くブライズメイドも頻繁に登場させました。
Chapter 10「花嫁たち」
最後のチャプターでは、日本とイヴ・サンローランの関わりを紹介します。1963年に東京と京都を訪ねた際に、日本の文化や伝統工芸品に魅せられたサンローラン。展示されている4点の作品は、1963年の春夏オートクチュールコレクションのもので、このショーは帝国ホテル東京や東京プリンスホテル、新大阪ホテルでも開催されました。
Chapter 11「イヴ・サンローランと日本」
「クリスチャン・ディオール展」や「ガブリエル・シャネル展」など近年、美術館でファッションデザイナーを取り上げる展覧会が増えています。
ファッションが好きな方も疎いと思っている方も“ハイブランド”としてでなく、1人のアーティストの全貌を辿ることのできる機会として鑑賞するのも良いかもしれません。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2023年9月19日 ]