2021年に東京の原美術館が活動を終えて以来、その活動を受け継ぐかたちで、旧ハラ ミュージアム アークを改称してスタートした、原美術館ARC。磯崎新の設計により、緑豊かな群馬県渋川市に建つ美術館は、内外の著名アーティストによる作品を数多く有し、美術ファンの注目を集めています。
2023年度を通して開催されている展覧会は「青空は、太陽の反対側にある」。ユニークなタイトルは、作品制作や鑑賞のあり方の一端を表しています。
原美術館ARC外観 (手前)ジャン=ミシェル・オトニエル《Kokoro》2009
原美術館が40年あまりかけて収集してきた作品を展示する本展。ギャラリーA・B・Cは現代アートです。
横尾忠則(1936-)は、1950年代後半からグラフィックデザイナーとして活躍。1980年に見たピカソの展覧会に衝撃を受け、いわゆる「画家宣言」を経てアーティストへと軸足を移しました。
《DNF:暗夜光路 2001年9月11日》は、2001年に原美術館で開催された「横尾忠則 暗夜光路」展の開催時に制作された作品です。作品名が示す通り、同年ニューヨークで起こった同時多発テロ事件が制作の背景にあります。
ギャラリーA展示風景 (左から)横尾忠則《戦後》1985 / 横尾忠則《DNF:暗夜光路 2001年9月11日》2001
スラシ・クソンウォン(1964-)はタイのアーティスト。《SMALL IS BEAUTIFUL-GERHART RICHTER》は、ゲルハルト・リヒターの作品イメージの上に、安価なタイの商品を散りばめた作品です。
《SMALL IS BEAUTIFUL-FLOATING MARKET》は、多くの人がイメージするタイの姿である、水上マーケットの観光絵葉書を拡大し、こちらも安価なタイ製品を配置しました。
ギャラリーA展示風景 (左から)スラシ・クソンウォン《SMALL IS BEAUTIFUL-GERHART RICHTER》2001 / スラシ・クソンウォン《SMALL IS BEAUTIFUL-FLOATING MARKET》2001
《案内嬢の部屋 1F》は、演劇的な手法を用いた写真のシリーズで知られる、やなぎみわ(1967-)の、初期の代表作です。定型化された美の枠にはめられた女性たちが、閉鎖的な空間に配されています。
やなぎみわは2005年に個展「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」を、原美術館で開催しています。
ギャラリーA展示風景 やなぎみわ《案内嬢の部屋 1F》1997
束芋(1975-)は、本名・田端綾子。次女であったため「田端さんちの妹」をもじった「タバイモ」からの命名です。1999年にキリン コンテンポラリー アワードを史上最年少で受賞後、2007年にはパリのカルティエ現代美術財団にて個展を開催。また同年、ヴェネツィア・ビエンナーレに作品を出展するなど、国内外で華々しく活動を続けています。
ビデオインスタレーション作品の《真夜中の海》は、2006年に原美術館で開催された「ヨロヨロン 束芋」展の後、コレクションに加わりました。
束芋《真夜中の海》2006/2008年 © Tabaimo撮影:木暮伸也
奈良美智(1959-)の《MY DRAWING ROOM》は、奈良自身のアトリエをイメージしてつくられた作品です。
もとは2004年に原美術館で開催された「奈良美智 ─ From the Depth of My Drawer」と同じ時期に、美術館2階奥の部屋に常設。2001年の原美術館閉館を機に、原美術館ARCへ移設、リニューアルされました。
奈良美智《My Drawing Room》2004/2021年 © Yoshitomo Nara撮影:木暮伸也
原美術館ARCの中心に据えられているのが、鈴木康広(1979-)の作品。全長約7メートルの日本列島を模ったベンチで、実際の方角を忠実に測定して設置されています。
美術館が立地する渋川市は、日本の主要四島の中心に位置しているので、ベンチもほぼ日本の中心に置かれているといえます。
鈴木康広《日本列島のベンチ》 2014/2021年 © Yasuhiro Suzuki撮影:木暮伸也
特別展示室「観海庵」は、書院造をモチーフにした静謐な和風の空間。木、石、和紙、漆喰で仕上げられ、各所に名工の技が光る独特の空間では、古美術が展示されています。
《光悦謡本》は、本阿弥光悦の書体を基にして江戸時代に出版された、希少な古活字本です。
《光悦謡本》(内百番)江戸時代(17世紀)
青空をよく見ると、空の青さには濃淡があり、太陽の周りは白っぽく、理想とする青い空は太陽の反対側にある。という現象から命名された本展。美術や社会の状況にはとらわれず、自身の理想を求めたアーティストたちの作品が並びます。
第1期(春夏季)は9月3日(日)までですが、9月9日(土)からは新たに第2期(秋冬季)が開催。出品作ががらりと変わります。第1期同様に、バラエティ豊かな現代アートと東洋古美術をお楽しみいただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年4月9日 ]