東京藝術大学で、卒業・修了制作の中から各科ごとに特に優秀な作品を選定し、大学が購入する「買上」制度。前身の東京美術学校での買上も含め、同大学では1万点以上の学生制作作品を所蔵しています。
その中から厳選された約100件の買上作品を通して、日本の美術教育の歩みを振り返る展覧会が、東京藝術大学大学美術館で開催中です。
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東京藝術大学大学美術館「買上展」
展覧会は2部構成で、第1部は「巨匠たちの学生制作」。東京美術学校を卒業した後に、美術界の各分野を主導した作家たちの作品です。
冒頭の木彫《元禄美人像》は、板谷波山の卒業制作です。後に陶芸家として初の文化勲章を受賞する波山ですが、当時の東京美術学校では彫刻科卒業。高村光雲の指導を受けており、その力量がよくわかります。
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(右手前)板谷波山《元禄美人像》1894年
横山大観をはじめ、巨匠の作品がずらりと並ぶのが近代日本画です。菱田春草の《寡婦と孤児》は「化け物絵」と酷評されたものの、岡倉天心の采配で首席になり、買上となりました。
なお、青木繁、萬鉄五郎、藤田嗣治らの卒業制作は買い上げられず、自画像だけが納められているのは、意外に思えます。
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(左から)平福百穂《田舎嫁入》1899年 / 菱田春草《寡婦と孤児》1895年
続く第2部は「各科が選ぶ買上作品」。東京藝術大学では昭和28年(1953)から買上制度がはじまり、今年でちょうど70年。現在では多くの科で首席卒業と位置づけられています。
日本画は、1981年度に台東区長賞が創設されて以来、卒業制作の首席が台東区長賞、修了制作の首席が大学買上になることが多くなっています。
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(左手前)梅原幸雄《遠い記憶》1978年
建築の買上作品を見ると、時代とともにテーマや表現が変わっているのがよくわかります。本展では東京藝術大学が設置された1949年から今日までを5期に分け、各期から1作品ずつ展示しました。
《東京芸術大学改築案》は1952年の作品。奥村と吉田は東京美術学校の最後の卒業生で、既存のキャンバスの問題点を検証。大学の改革案を構想しました。
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奥村昭雄 吉田桂二《東京芸術大学改築案》1952年
近年は先端芸術表現、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、映像研究など研究領域も広がり、表現方法も多様化しています。それぞれの科ごとに、買上の選定意図などを添えて作品が展示されています。
鎌田友介《Other perspectives ― The entrance ―》は、先端芸術表現の買上作品。多視点が同時に存在する空間をたちあげるシリーズで、厳島神社のような水上建築のイメージをベースにしています。
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鎌田友介《Other perspectives ― The entrance ―》2011年
大学による買上作品を見ていくことは、大学が美術をどう考えていたかを見ることと同義です。「80年代の買上作品」など、一定期間に絞った作品展も見たくなりました。
ちなみに「買上」なので作者には代金が支払われますが、作品の大小、形状にかかわらず、一律で30万円。物価変動による価格変更もないとのことです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年3月30日 ]